約 2,287,932 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1264.html
長門ふたり 第六章 ハルヒ、古泉に恋す。 とある日曜日。僕は長門さんのマンションに呼び出された。何の用事かは 知らされていない。今朝、起きるといきなり長門さんから携帯に電話が入り、 「来て」 とただ一言告げただけで切れた。かけてきたのが長門さんAなのかBなのかは 電話では知りようが無いが、とにかく、呼び出されたからには行くしかないだろう。 マンションの入口で長門さんの部屋のルームナンバーを押し、オートロックの 鍵を解除してもらってからマンションに入る。エレベーターで上り、 部屋のドアをノックして入れてもらう。部屋の唯一の調度であるこたつの右に 長門さんAが左にBが座り、真中に僕が座った。 長門さんAが切り出す。 「あなたの言う通り、わたしたちは彼を共有した」 「助かっています」 「しかし、この状態は問題がある」 「と言いますと?」 「彼の注意のほとんどが涼宮ハルヒに向いている」 はあ、それはそうだろうな。壁でおとなしく本を読んでいる地味目の 美少女と、放っておいたら世界を破壊しかねない派手目の美少女の どっちが気になるか、といえば後者だろうし。 「お気持は解りますが、こればっかりはなんとも」 「わたしたちもそう思っていたが間違いと気づいた」 「どう間違っているのですか?」 「彼の注意を涼宮ハルヒからそらす方法がみつかった」 「それはそれは。彼の脳を改変しますか」 「それはあまり好ましくない」 「では、どうされるのですか?」 「彼の注意が涼宮ハルヒに集中しているのは 涼宮ハルヒが彼に固執していることの裏返し」 確かに。ヒューマノイドインターフェイスも有機生命体の心理について 研究がかなり進んだんだな。 「涼宮ハルヒの注意を他に向ける」 「なるほど、それは考えませんでした。それならば...」 「涼宮ハルヒの注意があなたに向くように脳の改変を行った」 「今、なんと言われましたか?」 「通俗的な言語で言うと『古泉一樹が好きで好きでたまらない』状態に誘導した」 「ちょっと待ってください、そんなことを勝手に...」 僕はつい最近、長門さんがダブル改変した世界での僕と涼宮さんの 関係を思い出した。みんなが見ているところで弁当を食べさせあう仲。 放課後に毎日、あんなことやこんなことを繰り返す仲。 「あなたが心配しているようなことは何も起きない。大丈夫」 「しかし...」 「これは、朝比奈みくる流に言えば『既定事項』。拒否するなら 彼を共有すると言うあなたの提案も拒否する」 僕は彼の二重化を思い出した。それはそれでひどく困る。 「これで話は終わり。帰って」 僕はマンションを追い出されてしまった。 涼宮さんの様な美少女と「深い仲」になるのはほんとうは 満更でもないことなのかも知れないが、こと、相手が涼宮さんとなると ちょっと大変すぎる。毎日、弁当を食べさせあわないといけないのだろうか? みんなが見ている前で。頭がいたい。 次の日、うわべではいつもと同じ作り笑いを浮かべながら、その実、 緊張しながら文芸部室のドアを開けた僕の目に飛び込んで来たのは、 僕の姿が目に入った途端、にやりと笑うと僕の方にとんでやってくる 我等が団長さまの姿だった。 「古泉くん、次のみくるちゃんの衣装、何がいい?」 いまだかつて、僕は意見など求められたことなど一度もない。 いつも何か意見を求められているように見えないでもないかも知れないが、 実際には同意しか期待されてないのだから、あれは違う。 それにしても、顔近付けすぎですよ、涼宮さん。 「考えといて。あと、ホームページのメンテは今日から古泉くんに やってもらうことにしたから。そうそう、忘れるとこだったけど、 副団長は今日からキョンにやってもらうことにしたわ。 悪いけど古泉くんは格下げね」 何か話がおかしい。涼宮さんは『僕が好きで好きでたまらなく』なったんじゃ なかったのか?じゃあ、なぜ、僕に次々とつまらない用事をいいつけるのだろう? 僕に恋しているようには全く見えないが....。 「古泉くん、早速だけど、今日、有希の部屋で鍋パーティをすることに決まったから このリストにある食材を買って有希のマンションに持ってきてくれる? あ、代金は立て替えておいてね」 渡されたリストはA4サイズの紙一枚分あり、その全てを買い揃えて 長門さんのマンションに持っていくのは半端ではない大変な作業だった。 にも関わらず、長門さんのマンションに青息吐息でやっとたどりつた僕に 涼宮さんは一言 「古泉くん、遅い!」 と言い放っただけだった。 次の日から涼宮さんの挙動はすっかり様変りした。まず、朝比奈さんをいじめるのを わざわざ僕がいるときを選んでやるようになった。僕が止めにはいると本当に うれしそうに僕にくってかかった。彼はと言えば 「いいアイディアだと思うぞ、ハルヒ」 とか 「全くそのとおりだな、ハルヒ」 などとお気楽に、先週まで僕が口走っていたセリフそのままに口走っている。 そう言いながらにやりと僕の方をみて笑う彼をみるとむかっ腹がたった。 それでやっと、なぜ彼がしょっちゅう僕の方を見て苦虫を噛みつぶしたような 渋い顔をしていたのか解るようになった。本当、これって頭に来るな。 「古泉くん、あれやって」 「古泉くん、これやって」 と涼宮さんはなんでもかんでも僕に言いつけて僕をこき使うようになった。 僕はとうとうへとへとに疲れ果てて、どう頑張ってもいつもの作り笑いすら できなくなり、彼がよくしていたように文芸部室の机につっぷして 居眠りをするようになった。 おかしい。絶対に変だ。涼宮さんは『僕のことが好きで好きでたまらなくなった』 んじゃないのか?だったら、なんで僕にこんなにつらくあたるんだ。 彼はと言うとすっかり時間を持て余し、長門さんの目論見通り、 彼女の隣に座ったりするようになった。よく解らないが、 無駄話などとも交わすようになったようだ。 涼宮さんの脳の改変は何かが間違って失敗したようだけれど、 彼ともっと交流したいと言う長門さんの希望は見事に 適っていた。 長門さんが涼宮さんの脳を改変してから二度の目の金曜日が来る頃には 僕は歩けない程へとへとに疲れきっていた。 涼宮さんの僕に対する要求は留まるところを知らず、エスカレートする ばかりだった。もう限界だ。その日、涼宮さんが 「古泉くん、ちょっとあれと....」 と言いかけたとき、僕はとうとうこう言わなくてはいけなくなった。 「すみません、涼宮さん。僕はへとへとです。今日は勘弁してくれますか?」 その時の涼宮さんの顔ったらなかった。よもや、僕が断るとは 夢にも思っていなかったようで、 横っ面を思いっきりはたかれたようなポカンとした顔をした。 次の瞬間にはこれ以上の不快は無い、という不機嫌な顔になり 「あ、そう。じゃあ今日は帰っていいわ」 と言った。僕は早々に文芸部室を引き上げた。 今日こそはゆっくり休まねば。死んでしまう。 そのとき、僕の携帯がコールされた。携帯を取り出して読んだ僕の目に 飛び込んで来たのはこんなメイルだった。 「最近、まれにみる巨大な閉鎖空間が発生。急速に増大している。 至急、出動されたし」 .....もう、死にたい。 その日の閉鎖空間はいつになくやっかいで、倒しても倒しても 神人が出現し、僕等は全力で戦わなくてはならなかった。 やっと閉鎖空間が消滅し家に辿り着いたときには夜中の2時を回っていた。 あと一人神人が出現していたら、間違いなく、僕の心臓は悲鳴をあげて 停止していただろう。家にたどりついた僕は着替える元気すらなく そのままベッドに倒れこんだ。あとのことは全く覚えていない。 翌日の土曜日、僕は長門さんのマンションに向かって歩いていた。 僕は涼宮さんが誰かを「好きで好きでたまらなく」なったらその相手に どういう態度をとるか、という点で根本的なあやまちを犯していた。 ダブル改変世界で僕とバカップルを演じてみせた涼宮さんは本来の 彼女ではないのだ。あれは僕をつなぎ止めるために長門さんが つくり出したフィクションだ。 誰かが「好きで好きでたまらなく」なった場合に涼宮さんが することはあんなことじゃない。 考えても見ろ。涼宮さんは、あの5月の日、世界を消滅させかけたあの日に、 たった一人、彼だけを選んで連れていったのだ。 本人が自覚的にどう思おうと、彼女くらいの年格好の女性が 世界でたったひとりだけ男性を選んだら、それが何を意味するかは 聞くだけ野暮だろう。でも、涼宮さんは彼にどんな仕打を していただろうか?まさに、今、僕が涼宮さんにされているのと同じことをそっくり そのまま彼にしていたではないか。長門さんは目論見通りに涼宮さんの脳を 改変したのだ。僕がとんでない勘違いをしていただけのことだ。 長門さんのマンションに着くと僕は彼女達にお願いした。 「すみません、元に戻してください。もう体が持ちません」 長門さん達はお互いに顔を見合わせると言った。 「それは残念。涼宮ハルヒから開放された彼は、私達と 頻繁にコミュニケーションをするようになった。彼も 幸せ、私達も幸せ、涼宮ハルヒも幸せ。完全な解決策と 思っていた」 「あなたは、涼宮ハルヒの脳を改変すると告げたとき、 強く反対しなかった」 「いや、それは長門さん達が問題ないと言われたので...」 「私達は、『あなたが心配しているようなことは何も起きない』と言っただけ」 確かに。僕が心配したようなことは起きなかった。心配しなかったことが 起きてしまったわけだが。 「そのとおりです。ですが、予想外の事が起きて、対応に苦慮しています。 長門さん達はこうなると知っておられたのですが」 「知っていた」 「しかし、彼は問題なく耐えていたので、有機生命体の男性は常に 女性の理不尽な要求に耐える能力を備えていると判断した。 間違っていたのか?」 いや、間違ってませんよ。ただそれには重要な条件があります。 きっとあなたたちには理解できないような、ね。 「とにかく、限界です。あと一週間この状態が続いた場合、 僕は自分の精神を正常に維持する自信がありません。 お願いですからもとに戻してください」 「とても残念な結論」 「彼も涼宮ハルヒもそう思っていると思う」 「お願いします」 僕はそう頭を下げてマンションを後にした。 長門さん達は僕の願いを聞き入れてくれるだろうか? もし、聞き入れてくれなかった場合には..。自分でも自分が 何するかちょっと自信が持てない...。 週明けの月曜日、涼宮さんはまるで手の平を返したように、こう宣言した。 「やっぱり、副団長はキョンじゃ役不足よね。古泉くんに副団長を やってもらうことにするわ。キョンは格下げね。じゃあ、さっそくだけどキョン...」 こうして彼の平穏な日々は2週間足らずで終息し、彼はまた 希代の変人涼宮ハルヒによる無限地獄に叩き落とされ、僕はと言えば 傍観者の立場に戻った。この境遇に何ヶ月も耐えていたとは驚嘆に値する。 早晩、長門さんのストレスが限界に達して、またなんらかの行動を起こすのは 間違いないだろうけれど、とりあえず、しばらくは大丈夫だろう。 長門さん、有機生命体の男性が女性の理不尽な要求に耐える能力を 備えているための条件を教えてあげましょうか? それはね、男性が女性にこれ以上無いくらい惚れ込んでいる場合なのですよ。 勿論、彼は自分がこの条件を見たしていることを強く否定するでしょうけどね ....。 第七章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6010.html
涼宮ハルヒの遡及ⅩⅡ どれだけの時間が経過しただろうか。 しかし、俺たちはボロボロになりながらも踏ん張り続けた。 「艦首超必殺撃滅砲発射!」 ハルヒが手を翳し、この砲撃だけは俺から撃たなきゃならない。 深遠なる闇を一閃の光が走る! 長門とアクリルさんが放つスターダストエクスプロージョン以上の威力が怪鳥群を殲滅し、しかし数が数であるし、しかも前の第一波と違い、今度はひっきりなしに増えてくる! さらには艦首超必殺撃滅砲はエネルギー充電砲撃だけあって連射が効かず、また他の武器も一時使用不能となるという欠点がある。 じゃあなぜ使わなきゃいけなかったかというと、完全に俺たちが取り囲まれたからだ。 もちろん、相手も艦首超必殺撃滅砲の後は戦艦が単なる鉄の棺桶と化すことを知っている。こっちの戦艦のダメージはほとんどその時に受けるものだ。 もっとも! 『グレイトフルサンライズフェニックス!』 遠距離怪光線攻撃ならともかく、その瞬間に肉弾で突っ込んでこようものなら長門とアクリルさんの餌食だ! 俺たちの前に飛び出してきた二人の放つ光の不死鳥の羽ばたきが、怪鳥をなぎ倒していく! しばし戦場が硬直。 「キョン、大丈夫……?」 「もちろんに決まってんだろ……」 「ふふ……そうね。でも、これが蒼葉さんの気持ちだったんだろうね……」 「ああ、なんとなくわかるさ。たった一人で戦うことがどれだけ辛かったか……」 おっと、俺たちが戦艦の中にいるんだからダメージはないだろう、などと思ったならちょっと甘いな。 先にも言ったが怪鳥は口から妙な飛び道具を撃ってくる上に数が半端なく多いんだ。 その衝撃が、当たり所が悪ければ、当然、かなり戦艦を揺らす訳で、何度か俺たちはバランスを崩し、椅子やパネルに叩きつけられたこともあった。それが幾度となく続けば当然、肉体へのダメージとなる訳で、もっともそんなことはどうでもいいんだがな。 この痛みを味あわないことには蒼葉さんに顔向けできないのは勿論、長門、古泉、朝比奈さん、アクリルさんとだって顔を合わせられん。 しかし、その硬直は一瞬、再び、怪鳥たちは四方八方から突撃を開始する! 「けど負けてらんないわよ!」 「だな!」 ハルヒと俺が吠えて再び迎撃を開始する! 機体はすでにあちこちから煙が上がり、きしむ音がまるで戦艦の苦痛の声のように聞こえるが、何、心配するな。逝くときは一緒だぜ! 「馬鹿言ってんじゃないわよ!」 「ハルヒ?」 「キョン! あたしはこんなところで死ぬ気なんてさらさらないんだからね! みんなで一緒に元の世界に戻るんだから! 負けるとか死ぬとかなんてまったく考えていないわ!」 ハルヒがいつの間に、俺に近づいてきていたのか、胸倉をつかみ俺を引きよせ、大きな漆黒の瞳にマジで怒気を孕ませて睨んでくる。 「いい? この戦艦は不沈艦よ! だって、あたしのものなんだから! んで、この船があたしたちを元の世界へと連れてってくれるの! だから沈むなんて表現、絶対に許さないわよ!」 ハルヒ…… 俺は一瞬、慄き、ハルヒを茫然と眺めたが―― 「だよな」 再び呟く俺のセリフにも力がこもっていた。 「お前の言う通りだ。俺たちはこんなところでくたばる訳にはいかんよな。なんせ元の世界でやり残したことがたくさんあるし、まだまだやりたいことがたくさんある」 「その通りよ!」 言い合って、俺たちは再び配置につく。 そして―― 『来ました! あたしの中ではちきれないばかりの何かを感じます!』 外部スピーカが拾ったのは朝比奈さんの声だ。 「ん! なら、みくるちゃん! 解っているわよね!」 『はい! ありがとうございます、みなさん!』 ハルヒの歓喜の声に、朝比奈さんが声を張り上げて、これまた歓喜されておられます! 『はぁ~~~』 外部モニターを怪鳥から朝比奈さんへと切り替える。そこでは、朝比奈さんが気合を入れ直して、しかもツイテンテールが揺らめき立っている。 ひょっとして、古泉の赤球がなければ、何か原色オーラでも立ち上っているのではなかろうか。 『ミクルミサァァァァァァァァァァイルっ!』 朝比奈さんが眼下に向けて両拳を突き出すと、確かに胸から猛スピードの閃光が放たれた! 光が大地の闇に飲まれるように消えてゆき、一瞬の静寂。 まさか失敗したのか―― などと考えようとした直前! 大地の闇から一気に光が放たれ、そしてその光が一気に放射された! と、同時に光が一瞬で世界を覆い、怪鳥の全てが飲み込まれ、俺たちの乗る戦艦も飲み込まれ、長門が、朝比奈さんが、その姿を北高セーラー服へと変化させられる! 風景が全てを震わせながら、あたかも突然大地が切り裂かれそこに全てが沈み込んでいくかのような地鳴りと轟音が響き、崩れていく! 俺はハルヒの手を取り抱きかかえるような形で、しかし、落下しない!? そうだ! そのまま宙に漂っている、そんな感じだ! 「やった……」 「ああ……」 俺の胸の中で茫然声を漏らしたハルヒに俺が同調すると、 「あたしたちの――勝ちよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 ハルヒがガッツポーズで勝利の雄叫びをあげたのである。 勝利の余韻に浸ることしばし。 気が付けば、長門が朝比奈さんが古泉が俺たちを囲んでいた。 「どうやら、これで終わりのようですね」 「そう。わたしたちの勝利」 「本当にありがとうございます。みなさんのおかげで今回はあたしも役に立てました」 「違うわよ、みくるちゃん。今回はあたしたちSOS団がみんな頑張ったから。みんながみんなにお礼を言うべきなのよ」 「だよな」 などと俺たちは談笑を交わしている。 世界の崩壊と供に、俺たちは元の世界に戻れることが解っている。 もっとも、この記憶は失くしたくないもんだ。なんたって本当の意味で俺たちは一つになったことを実感したわけだからな。 しかし、勝利の余韻と充実感を吹き飛ばすセリフが聞こえたのはこの時だった。 「突然だけどお別れの時がきたみたい」 え? 「さくら……さん?」 ただ一人、SOS団とは無関係のアクリルさんが切り出してきて、俺とハルヒが茫然とした声を漏らすが、彼女はどこか寂しげな、しかし吹っ切った笑顔を俺たちに向けていた。 「この世界が崩壊するということは、あたしたちは帰巣本能によって、それぞれの世界に強制的に帰されることになるの。これはどうしようもない決まり。だから、これであたしとはお別れ」 ――!! 「嘘……でしょ……?」 ハルヒが愕然とつぶやき、 「残念だけど本当」 アクリルさんはなんとも子供を宥める母親のような笑顔を向けていた。 ……まさか、あなたはそれを知っていたんじゃ……! もちろん、俺の声も震えている。 「だとしたら?」 今度はなんとも不敵な笑顔を浮かべてくれた。 が、 「なんてね。そんな訳ないでしょ。この世界に来ちゃったのはただの偶然。だいたい、明日も一緒に遊ぶ約束してたのに、わざわざ約束を破ってしまうような真似なんてするわけないじゃない。あなたたちに対しては、ね」 今度は茶目っ気な笑顔を向けてくれる。が、しかし、再び即座に神妙な笑顔になって、 「キョンくん、あたしが何のためにあなたたちの世界に来たかは言ったわよね?」 「ええ……それは、俺の前にこの世界に戻してもらった時の魔法で背負ってしまった後遺症を是正するために……って、ことで……」 「その通りよ。それを今から敢行するわ。幸い、何もしなくても、みんな、この空間から脱出すれば、今までのことは夢だと思ってしまうはずだから。だけどね、それをより確実なものにさせてもらう」 どういう意味……? 「夢は目が醒めたらほぼ記憶から消えてしまうもの。どんなに留めようと思っても、手のひらからこぼれる水のように塞き止めることはできない。そして、キョンくんの召喚術の後遺症はあたしに、ううん、あたしや蒼葉、そして向こうの世界に関するすべての記憶を消すことによって達成される。なぜなら召喚術の後遺症は記憶が媒体になっているから。ならその記憶を失くするしか、是正される方法はない」 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?! 「しかも都合がいいことに、今、この場に、あたしたちと関わった全員がそろっている。労せずして、みんなの記憶も一緒に抹消させることができる」 「んな!」「――っ!」「えっ!?」「……!」 もちろん、ハルヒ、古泉、朝比奈さんは驚きの声をあげ、長門もまた、漆黒の瞳を普段より二回りは大きく見開いている。 「楽しかったわよ。この世界の一日はね。でも夢の宴もこれでおしまい」 アクリルさんが左手の人差し指を天に向け、崩壊最中の世界の瓦礫がゆったりと空間を漂っている中、 「あたしがあなたたちの世界で魔法を披露したことを不思議に思わなかった? 正直言ってパニックを引き起こすことは想像出来てたわよ。なんせあたしが振るう力は未知の力だったことは前にあたしたちの世界に迷い込んだキョンくんの態度を見ていたから知ってたしね。でも、それは最初から記憶を消すつもりでいたから気を使わなかっただけよ」 ま、待ってくれ! さくらさん! 俺は、いや俺とハルヒはあなたたちのことを忘れたくない! 忘れちゃいけないんだ! だから! 「いいのよ、忘れても。だって、これでもう二度と会えなくなるんだから。ううん、あなたたちは会おうと思う気持ちすらなくなるんだから」 そうじゃない! 俺とハルヒはさくらさんたちの生きる世界を存亡の危機に立たせたんだ! その罪は背負って行かなくちゃいけない! それに! それに! 「お願いさくらさん! さくらさんたちのことをあたしたちの記憶から消さないで! せっかく出会えた異世界人の記憶を消したくない! それに……あたしはまだ……蒼葉さんに謝っていない!」 ハルヒも俺と同じで悲痛の叫びをあげている。 そうだ。俺たちは絶対にあの日の記憶をなくすわけにはいかないんだ! 「それもひっくるめて、よ。何を謝るのか知らないけど、あたしも蒼葉もあなたたちを恨んでなんかいない。感謝の意しか持っていないわ。だから気にする必要はないの。ついでに今のあなたたちの嘆き悲しむ記憶も消え失せるから問題ないわ」 アクリルさんがとびっきりの笑顔を向けてくる。 「もっとも正確には記憶を消す、じゃなくて、巻き戻す、だけどね。蒼葉とあなたたちが出会ったあの日まで。そして、今日までのことは、その日から、あたしたちと出会わなかった過程の記憶が書き込まれる。だから、もう、あたしたちのことは思い出さない」 それでもだ! あなたたちのことを忘れるくらいなら俺は今のままで構わない! 召喚術の後遺症も受け入れる! だから! 「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」 「え……!」 アクリルさんの瞳には怒気が孕んでいた。 「いい、キョンくん。あたしたちのことを忘れることよりも召喚術の後遺症の方がはるかに大きな問題なのよ。前にも言ったけど、あなたはハルヒさんの下す命令には決して逆らえない。その意味が解らない?」 別に今までと変わる訳じゃない。俺はハルヒに巻き込まれ型の人間だ。今はそれで構わないとさえ思っている。 「違うわ。このことが分かったからあたしは、ううん。あたしと蒼葉はなんとか、キョンくんの元へと赴こうと決めたんだから」 アクリルさんがゆっくりかぶりを振り、そして俺に睨みつけるような厳しい視線を向けてくる。 もっとも、そこに敵意はない。むしろ、親や教師が俺を心配して、あえてぶつけてくる厳しい視線とそっくりだ。 「召喚術は元来、魔物を呼び出す魔法。魔物であれば頑丈だしある程度の無茶も可能。んで時が経てば、召喚の魔力を魔物が持つ魔力で食いつぶしてしまって召喚術の影響は解ける。でも、魔力を持たない『人』はそうはいかない。魔力同士の犇めき合いが存在しないから死ぬまで解けることがない」 一生、この後遺症を背負うってことですか? 「そういうこと。そしてもう一度言うけど、キョンくんはハルヒさんの下す命令には逆らえない。必ず実行してしまうの。どんな命令であったとしても」 だから、あなたたちのことを忘れてしまうくらいなら、俺は一生、ハルヒの尻に敷かれようが構わないって…… 「――それは、たとえば涼宮さんが冗談でも「死んで」とか言ってしまうと――ということですね――」 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?! 古泉の神妙な一言がアクリルさん以外の俺たち全員を凍り付かせる。 「その通りよ。別にそこまでストレートじゃなくても、身体の限界を超えるようなことを言ってしまうだけで同じ結果を招くわ。だからこそ、あたしは召喚術の後遺症を消さなきゃいけないと考えた。 なんたってキョンくんにはあたしたちの世界を救ってもらった文字通り世界にとっての命の恩人だから。そんな人の命を、あたしたちの所為で危険に晒すなんて恩を仇で返すような真似、できないわよ。 前に言った『時間制限がない訳じゃないけど』というのはそういう意味。今この時でさえ、キョンくんには危険が迫っていないとは言えないということ。住む世界が違うから確認できるわけじゃないけど見て見ない振りをするなんて卑怯な真似をするつもりもない」 俺は絶句するしかできない。 こんな選択が存在するのか? 忘れちゃいけない人たちのことを忘れてしまうか、ふとしたことで命を危険に晒してしまう後遺症を持つか、なんて…… というか、こんな選択を聞いたら誰だって後者を選ぶよな…… 「だめだから! 絶対にだめなんだから! あたしはそんな無茶をキョンに言わない! これからずっと一生! だから!」 ハルヒが泣き叫んでアクリルさんに言い募る。 そうだ! ハルヒが無茶さえ言わなければ問題ないじゃないか! だったら無理に記憶を消す必要はないはずだ! 「無理よ。なぜなら、『無茶を言っている、という意識がないまま言う』場合が必ず存在するから」 ――!! ハルヒがよく言う「三十秒以内」ってのがそれに当たる。それは口癖ってやつだ。だから直せない…… 「理解した? ならもう異議はないわよね。自分の命とあたしたちの記憶。天秤にかければどっちが大切かは火を見るより明らかよ」 違う! あなたの言葉を借りるなら、俺は、あの時、二者択一しかなかったはずなのに、ハルヒもそっちの世界も救う選択ができた! だったら、まだ何か方法があるはずだ! あなたたちのことを忘れず、そして、召喚術の後遺症を消す方法が! 「残念だけど、それを考える時間は存在しないわ。だって、もうこの世界が無くなっちゃうから、あたしたちは自分の世界に強制送還させられる。そして異世界間移動に確実性がないことは説明したわよね? 唯一確率が高い方法だった今回にしたって、あたしや蒼葉は何度もこの世界の平行世界へ行ってしまっている。つまり、次に、あたしが、絶対にあなたたちの元に行けるという確証は存在しないし、あなたたちはまだ異世界間移動を身に付けていない。だから、この機会は絶対に逃すわけにはいかない」 あ……! 「さようなら――今度こそ本当に、ね――」 アクリルさんがこの場に似つかわしくない、あの日、消滅していく朝倉涼子が見せたような無邪気な笑顔を浮かべて、 だめだ! やめてくれアクリルさん! 「メモリーリウィンド」 静かに呟くと同時に、その左手人差し指から柔らかな光が発せられる。 その光は俺たち全員を呑み込み―― 気が付けば、いつも見慣れた自室の天井が見えた―― 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅢ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1596.html
「明日の9時に駅前に集合よ!!15分前にはちゃんと来ておきなさい。 来ないと死刑だから!」 お前のせいで俺の1週間の内の貴重な2日間の休みがなくなるんだよ!! とは言えるわけもなく俺は青菜に1kgぐらいの塩をかけた状態で家に戻った どうせなら俺と朝比奈さんその他の憂鬱として小説を出してほしいものだ 翌朝、煩くも目覚まし時計のベルが鳴った と同時に妹がニードロップ 毎度騒がしい妹だ 時計を見ると8時40分 やべぇ寝過ぎた!! 俺は闇討ちに遭った坂本竜馬のように焦りながら自転車を漕いだ と同時に不可解な違和感を覚えた とそんなことより急がねば! 駅前に着くと驚愕した 他人が俺の顔を見ればツチノコを見つけた1農民の顔に見えただろう 「遅いじゃない!罰金!」聞き慣れただろう声のトーンが異常に高い ちっさいハルヒがそこにいた 「やぁ、おはようございます」不機嫌な俺をさらに不快にさせる声が聞・・・ 古泉もやけに小さかった 何か[禁則事項]の黒ずくめの男にでも薬を飲まされたのか?おい 「おはようございます、キョンくん」 砂漠で水があれば自分より先に飲ませるであろう人物の声を聞き振り返りまた驚いた 大人みくるがそこにいた 朝から感じていた違和感はまさにこれで ざっと周りを見渡してしたくもないが現状を把握した 大人は子供に 子供は大人になっているようだ しかも高校生以上が子供で中学生以下が大人になっているようだ 今すぐにでも現実逃避したい それと1つだけ疑問に思った なぜみくるさんだけ大人なんだ ロリか!この世の陰謀か!! と嘆いてる時に下腹部に弱い衝撃が走った ハルヒ(小)が俺にドロップキックをしたからだ 「もう!何ごちゃごちゃ言ってるの!さっさと行くわよ」 はいはいと答えた刹那に何故小さいこいつの尻にしかれなきゃならんのだということを心の中で叫び駅を後にした さてこの状況を見た人にどう説明しようか 一見すると美少女にどう見てもかっこいいとは言えない普通の俺―(自分で言っちまった・・・)―の凸凹カップルと その娘2人と息子1人だ っと・・・その前に影みたいな存在のこいつの状況も教えんとな・・・ いたって普通だ 昨日見かけた姿となんら変わりない さすが宇宙人と言うべきか 言わないほうがいいだろうな それよりなんで俺とお前が普通なんだ?またハルヒの迷惑この上ない願いか? 「・・・違う」ではなんだ?まさかお前の力か? 「・・・そう」俺は頭を抱えた まさか黒幕がこいつだったとは・・・ じゃ・・・なんでこのような世界にお前は変えたんだ?何か不満でもあったのか?ハルヒに 「違う」はっきりと断った 「はっきりといえば私ではない 私はこの状態に食い止めてるだけ」 は?と首を捻る フェルマーの最終定理を解いてる学者の姿が想像できたね まぁ俺にはsinθもわからんがな 今日の俺は自虐傾向のようだ もし夢ならば覚めてくれ 「朝倉の来襲」俺は耳を疑った 朝倉はお前が消したんじゃないのか? 「詳しく言えば朝倉馨の力によりこの世界は捻じ曲げられてしまった」 ぷっと吹き出しかけたがこいつの顔を見ると欠伸もできない いや・・・こいつはいつも無表情なんだがな 宇宙人でも新人さんがいるんだな が、俺が命を狙われることもなさそうだ 「そしてあなたの命を狙っている」緩んでいた俺の顔が空気を一気に抜いたペットボトルみたいに強張った おいおい冗談だろ・・・なんでまた俺が狙われなければならんのだ もしかして妹さんとかそういうことじゃないだろうな 「当たり」躊躇なく答えやがった まったく・・・ 神様よ もうちっと普通なところへ命を授けてくださらなかったのか もちろん人間で つうかこんなので当たったって嬉しくとも何ともねぇよ っていうかなんでハルヒや古泉は小さくされてしまったんだ? 「4年前の涼宮ハルヒには世界を改変する力がなかった だからそこに目をつけた 古泉一樹も同じ」 あぁなるほど・・・って納得できるかぁ!!今俺の不満は休日を削られたことからそちらに向けられた やれやれ貧乏くじ引かされてしまった・・・ 「世界を元に戻すにはあなたを狙って相手が姿を現した時に迎撃する そして世界を元通りに改変する」 つまり俺はお前に守られてるから命を落とすことは無いんだな? 「保障はできない」 おい! 「何してるの?早く来なさい!」ったく小さくなっても気は大きいままなんだな こいつはよぉ!! 「ははは まぁそこも魅力の1つでしょう」こいつの笑顔の気持ち悪さも同じだな っていうか顔近い!あと2mmしかねぇじゃねぇか 「なんか 朝起きたらいつもの服着れなくて・・・成長期でしょうか」恐らくあなたは成熟期でしょう というより今は究極体の方があってますよ とまぁハルヒと古泉が小さくなり朝比奈さんが大きくなった以外は変わることもなく・・・とは言い切れないが奇妙な1日が終わった 「明日は休みにするわよ!とりあえず自主活動で謎を探してくること!!解散!」 と今日の憂鬱感の70%を占める原因となった奴の声を聞き俺は帰路についた 長門込みで 「明日駅前に来て」またか・・・んで何時なんだ?「1時」1時かえらい遅いもんだ それならぐっすり寝させてもらうぜ 「朝1時 駅前に来て 恐らくこの現象の渦中の人物が来る それを仕留める」 俺の週末は恐らくBAD ENDで飾られるであろう 予感が的中した 仕方ないなと思い今日は早めに寝た 時計のアラームが鳴りもう少しと考えているうちに1時を指そうとしていた デジャヴだな・・・ってゆっくりしてる暇はねぇ 急いで着替え歯を磨き自転車で飛ばしていった すると途中で「やっほ~キョンくん どうしたのこんな時間に?まさか気になるあの子のところへ?」 貴方はいつでも明るいですね 周りは暗いのに それよりその質問の答えはNOです あながちハズレでもないが 「ははは嘘嘘 やっぱりキョンくんはおもしろいね~」どこが面白かったんだろう この人の笑いのツボが知りたい それよりあなたこそなんでここにいるんですか?「まずはキョンくんから言ってよぉ」 不安を覚えながら体がなまってはいけないのでサイクリングと答えた ハルヒのせいでなまることはないがな 「わたしもちょっとジョギングだよ 体がなまってはいけないからね ははは」 なんだ同じ理由ですか 奇遇ですね やっぱり運動に勝るもの無しですね あぁそれより急いでますので また明日会いましょう とお辞儀するとヒュッと首元を何かがかすった 手で触ると血が出てる 何故? そして次の瞬間安堵が絶望へと変わった「そしてあなたを殺しにきたの」 俺はイマイチ理解できなかった さっきまでフレンドリーな鶴屋さんがこんどは刃物を持って襲って来ただと? えぇっとこの場合某RPGではコマンドが出るんだったな・・・よし「ガンガンいこうぜ」・・・と って俺は何を考えてんだ!! あまりの出来事に気が動転しているようだ 恐らく鶴屋さんではないだろうが念のため聞いてみるか お前は誰なんだ?鶴屋さんではないな? 「あら?この顔の主は『鶴屋』っていうの?今日貴方を探しているときに公園にいたから真似してみたの どう?上手い?」 えぇ上手かったですよ 恐らく将来は主演女優賞をもらえるでしょう その時は俺も招いてくださ・・・って何を考えてるんだ・・・ いかん!いかん! 本当に俺は頭が混乱しているようだ 誰か一発叩いてくれ あとで100円なら払ってやる って眼前の鶴屋さんであっただろう物体しかいないが 「申し遅れました 私朝倉涼子の妹朝倉馨です 実は姉があなたを殺し損ねたそうなので私が代わりに来ました これから殺す相手に目的を告げるのは面倒くさいけど一応私のポリシーです」 これはこれは行儀よく ってまた命を狙われるのか俺・・・ 頼むから誰か来てくれ 谷口でもいいから お前の好きだった朝倉涼子によく似た妹さんがいるんだぞ ル●ンダイブしてでもいいから飛んできてくれ いや実際使えないなあいつは 恐らく縮こまってるだけだろうな 来るな谷口! 脳内から消えろ谷口! 「決心ついた?」 消去法だ・・・ハルヒは駄目だ小さいからな ってか来たって何もできないしな 古泉は使えないな ハルヒ同様小さいし閉鎖なんとかでしか能力を発揮できない 一緒にいるのも嫌だしな 朝比奈さんは恐らく大人でも無理だろう あいつをどこかに飛ばすことはできるだろう でもそのあとは? 最後の綱は長門だが1km以上離れているここはわかるのか? 前みたいに登場はしてくれるのか? 俺はライオンににらまれた猫みたいに震えながら後退りしつつ長門の登場を待った ドンッ 背中が無き壁にぶつかった え? 「ちょっとこの空間だけを切り取ったから逃げ出そうとしたって無駄よ」 今の俺の脳内では長門の顔と谷口の顔が浮き沈みしている えぇぃ谷口!!何故お前は俺にそんなに固執するんだ!!いい加減消えてくれ! 「空間の切り口があまりにも粗雑すぎる 切り屑も消去できていない あまりにも幼稚 だから私に気付かれる」 待ち望んでいた声が聞こえた 空耳じゃないよな? そこには長門がいた やっと来てくれたか長門 それにしてもかなり離れているぞ長門 間に合うのか?「だ」・・・?「いじょうぶ」 うわっいきなり現れるな長門 びっくりするじゃねぇか まぁつべこべ言える立場じゃないんだがな 「あら?こんにちは あなたのことは姉から聞きました あなたに邪魔されたそうですね」 「朝倉涼子は優秀でありながらも穴がありすぎた だからそこを突いた」 「では復讐としてあなたと対峙してもよろしいのでしょうか」「いい ただし勝つのは私」 なぁ俺帰っていいよなぁ もう目的は果たしたんだし・・・今日学校あ・・・今日日曜日だったな 口実にならないようだ とりあえず寝させてくれ・・・俺普通の人間じゃないか ってかなんで俺こんなに弱気なんだ 睡眠不足のせいか よし寝させてくれ 睡眠に勝るもの 「離れないで」俺の愚痴は中断された 「もうっなんでこんなに小さくなってんの?いくら医学が進歩したからってこんな薬なんてありえない・・・ なんでキョンと有希だけ変わってないの?みくるちゃんは大きくなってるし もういいわ明日になれば原因不明の薬も消えるでしょ 効く薬でも効力はいずれは消えるわけだし 明日起きたらキョンに聞いてみなきゃ 何故あんたと有希だけ変わってないの?ってね そしてキョンを脅して元に戻してもらうの この体じゃ駅まで行くのにも一苦労なんだから まぁ子供料金で電車に乗れるというメリットはあるけど そんなに電車使わないし ごちゃごちゃ考えるのはやめ おやすみなさい」 「おやおや建物がやけに大きい思ったら僕が小さくなっていたのですね このままじゃ他人に顔向けできませんよ 寝てる間に直ってることを祈ります」 「え?誰この人?ひゃっ私?何でこんなに大きいんですか・・・これじゃ服が着れない・・・明日買いに行きましょうか・・・おやすみなさい」 後ろで何か幼き時に結構はまっていたシューティングゲームのゲーム音のような音がする 戦況を見たい でも見たくない 俺がそんな葛藤の中で異様に谷口の顔が浮かぶのに嫌気が差した 頼むからお前がスケープゴートになってくれ谷口・・・ ちらっと戦況を目にしてみる さすがに俺1人を抱えて戦うのは無理があったのだろう 朝倉妹相手に苦戦しているようだった なぁ俺を帰らせてくれないか?俺がいても足手まといだろう 「この空間を一時的に元の空間に戻す際 一瞬の隙を作ってしまう そして負ける そうならないためにも帰すわけにはいかない」変な誘拐犯に捕まった気分だぜ 俺を殺そうとしてるのは第三者だがな 「それに・・・」長門が言葉を紡いだ「あなたがいれば戦闘に集中できる」おいおい逆じゃないのか? その問いには答えなかった 俺の後ろで破裂音がした 振り返ってみると朝倉妹が倒れている 「あなたは朝倉涼子より優秀 しかし勝ちを急ぎすぎた それが敗因」 長門は朝倉妹に対し冷静な口調でそう言った 某ゲームのファンファーレが俺の頭でエンドレスに流れている そろそろ眠気こらえるのも限界かもな 朝倉妹より長門のほうが相当痛手を負っている 俺にしてみりゃ長門が負けのように思える 大丈夫、このくらい平気と言い放ち体を再生させた ほんとに便利な奴だよな まったく 人間なんざ指切っただけでギャーギャーわめき、ちょっと頭打っただけで集中治療もんだ 宇宙人になれると広告が貼ってあるならば土曜日と日曜日どっちを休みにしてどっちを探索にするかと訊かれるぐらい迷うな そんときゃ人間を捨てるだろうな いかん思考回路がショートし始めた とりあえず寝させてくれ 頼む 「まだ世界の修復が終わっていない」あっさり断られたようだ 「やっぱり姉が敵わないのに私が敵うわけないよね 姉の言いつけも果たせなかったし」 そういい残すとこれまた姉と同様に砂になって消えていった 透明になるとかそういう消え方を望んだんだが 時計の短針は5時を指そうとしている 早く修復してくれ長門 「かなり複雑 でも半時間あれば修復できる」あと半時間も待たなければいけないのかよ 「待たなければ帰れない」そうだったここは隔絶された場所だった 選択肢は1つしかなかったのだ もういっそのことここで寝るか? 半時間かかるとはよく言ったもんで半時間を10分オーバーして世界が元に戻った すぐにでもベッドインしたかったが命の恩人を置いていくのも気に食わんので長門を後ろに乗せて自転車を漕いだ すまなかったな長門 お前には頭が上がらないぜ「いい」と言って本を読み始めた 眠くないのか?長門 とりあえず長門の住んでいるマンションの前に着くと長門を下ろしてやった 顔の筋肉をミクロ単位で動かし「ありがとう」と言う長門を後にして俺は帰宅した もう6時か 長くて2時間ぐらいだろうな あとは人間目覚しによって布団を剥ぎ取られるだろうな シャミセン お前が羨ましいぜ そういい残し俺は安眠を得た 起きる もう朝か ってか寝るときも朝だったが 時計を見る11時を指そうとしている いけねっ寝過ごした!!何故こんな肝心なときにあいつは起こしに来ないんだよ くそっ! 急いで自転車をこぐ ちくしょう 家の鍵をどこかで落とした方がよっぽどマシだぜ 駅へ着くと誰もいなかった そうだよな やっぱりみんな怒ってるだろうな 古泉なら待たせても何も感じないが朝比奈さんを待たせることはできないな ハルヒもだ 別の意味で しばらくすると眠い目をこすりながら朝比奈さんが来る あれ?どうしたんですか? 「あれ?キョンくん いつもより早いですね 12時集合なのに」 12時?俺は9時と聞いていたはずだが? 「へっ?私の間違いかしら やだぁ また怒られる」と真珠のような涙を浮かべてる それより確かに修復されたようで昨日のような大人な朝比奈さんではないようだ 俺としてはもうちょっと大人みくるでいてほしかったがな そう泣きじゃくってる朝比奈さんをなだめていると 古泉が早朝にもかかわらず他の人が見れば爽快ともいえる微笑みを振りまきながら 駅前へ歩を進めている もう元に戻りやがったのか 小さいほうがハルヒが落ち込んでる日よりも気分が良かったぜ こっちはいろいろあってろくに寝てねぇのになんでお前は寝起きなのにそんなに機嫌がよさそうなんだ 「おはようございます おぉ珍しくキョンくんがいるじゃないですか」いて悪いのかよ (昨日のことは機関の方でも騒がれていました なので僕もそんなに寝ていません) なんでそんなに平気にいられるのかを訊こうとしたが長門到着で訊くのをやめた もともと聞きたくもなかったがな 長門?お前の仕業か?時計の針を早めたのか?「ちがう」じゃぁなんだってんだ? 「みんなが覚えている涼宮ハルヒの決めた集合時間を3時間ずらしただけ」 そうだよな お前も眠かったんだよな 宇宙人でも睡眠時間は必要だもんな と一人で考え込んでいると今日限定食事の幹事兼団長さんがお出ましだ もう小さい姿じゃないらしい 一泡吹いただろうと言いたかったがそんなことを言った2秒後には絞められて逆に吹かされているだろう 「あれ?キョンもめずらしく早めに来てるじゃない ちゃんと昼飯は摂ったわね皆」 そんなの聞いてねぇぞ お前がおごりじゃなかったのかよ「・・・そういうことにした」おい! 「何言ってるの?あたしちゃんと言ったわよみんなに まさか食べてないって訳じゃないでしょうね」 ああ まったくそうだよ「ははぁんつまりあんた今お腹空いてるわけか・・・」 何を企んでいるんだよお前は「ってことで今日はキョンの奢りね あたしたちデザート欲しくなっちゃったから」 勝手に話すりかえんなよ お前の言ったことだろう でなんで朝比奈さんも了承してるんですか 長門そんな目で俺を見るな いくらでも奢るから 財布にあった重量感が消えそうだ 今の俺にとって 平凡な日常はこんなのかも知れない -fin-
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1556.html
「二人のハルヒ 第3部」 夏休みは終わった。 島で嵐が来たり、 永遠の夏休みが来て大変だった。 詳しくは、「退屈」「暴走」を読んで欲しい。 そんな訳で、2学期が始まった。 俺の予想通りに死人になって帰って来た奴がいた。 谷口もその一人である。 「あー、夏休み中ナンパしたが大失敗だった」 谷口、もうナンパやめろ…。 「何だと?俺は、ナンパしないと彼女作れないぞ」 なら、ナンパはやめて好みの子を探して告白しろよ。 「あーダメダメ…俺は、ナンパするしかないからな」 勝手にしろよ、あとミニハンバーグ貰うぞ。 「ちょ、おま…あー!」 咄嗟に、教室から出てSOS団室へ向かった。 いつものようにノックして入った。 部室にいたのは、古泉、朝比奈さん、長門、そしてハルヒ(大)だった。 「どうしたんだ?」 何だ、空気が重い感じがする。 何かこう…嫌な予感がする。 「それは、そこの涼宮さんに聞いたほうがいいですよ」 自慢のスマイル顔である古泉が言う。 「ハルヒさん、何があったんですか?」 「…時は動いたわ」 時は動いた? 「えぇ、そうです…未来へ通信したんですけど、繋がらなくなっちゃってぇ…」 泣きそうになる朝比奈さんがそう言った。 何だって!? 「そうです、長門さんも主に通信しようとしても出来ないんですよ」 いつの間にか、真面目顔になった古泉。 「長門、それはホントか」 「ホント」 長門は、冷静で答えた。 何故、みくるの上司も長門の主も繋がらないのか。 通信を遮断出来る奴はいるのか。 俺は、色々思い出してみた。 あった、遮断出来る奴がいた… それは、長門と同じ宇宙人が通信を遮断出来る。 しかし、その宇宙人は誰なのか。 何故、こんな事をするのか。 考えても答えが見つからなかった。 「それは、誰がやったんだ?」 全員、ハルヒ(大)へ注目した。 「それは…」 それは? ハルヒ(大)は俺に向かって言った。 「キョン君、あなたが知ってる人物よ」 俺が知ってる人物? もう一回思い出そう、俺が知ってる人物、宇宙人、1学期であった出来事…。 まさか、アイツなのか。 「そう、私達を困らせた人物…朝倉涼子よ!」 な、何だと! その時、俺の頭からフラッシュバックが起こる。 (遅いよ) (人間はさあ、よく『やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい』 って言うよね) (あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る) (あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。多分 大きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会だわ) (この人間が殺されたら、間違いなく涼宮ハルヒは動く。これ以上の情報を 得るにはそれしかないのよ) (涼宮さんとお幸せに。じゃあね) …思い出したくねぇ、あの悪夢を。 朝倉涼子…今度は何を企んでるのだ。 「朝倉は恐らく、世界を崩壊しようと企んでるに違いないわ」 ハルヒ(大)は、団長席に座りながら言う。 俺は、疑問に思った事あった。 「ちょっと待ってください!朝倉は死んだ…と言うが…消滅したんですよ?」 確か、長門の手によって消滅したはずだ。 なのに、何故こんな時に現れるんだ。 「それは、僕が説明しましょう」 出た、説明好き野朗め! 取りあえず、聞くか。 「向こうの世界から来たからです」 待て、何で向こうの世界からなんだ? 「えぇ、それは説明します」 早くしろよ。 「図を描いた方が分かりやすいでしょうね、∞を描きますね」 古泉は、∞を描いて顔上げて得意のスマイルした。 「まず、左側を時間Aします…そして、右側に時間Bとします」 ふむ、その真ん中は俺達がいる時間となる訳か。 「そうです、僕達がいる時間をX時点としましょうか」 それでどうなるんだ。 「まぁ、見て下さいよ。左は時間AからX時点へ流れてるとしまょう…。 で、X時点から時間Bへ流れ、時間BからX時点へ流れ、X時点から時間Aへ流れる事に なります」 つまり、時間Aと時間Bは別世界だとしたら、X時点へぶつかって行く訳か。 「そういう事になります」 …まさか、時間Aと時間Bは俺達と同じ時間で動いてると言いたいのか。 「あなたの言う通りですよ」 ならば、朝倉はどうやってここへ…。 「いいえ、ここにはいないんです」 どう言う事だ。 「確かに、僕は『向こうの世界から来たからです』と言いましたが…違うんです」 言ってる事がめちゃくちゃだぞ。 「つまりですね、向こうの世界に居ながら通信を遮断出来るんですよ」 古泉が言ってる事はホントなのか、長門。 「ホント」 そうなのか。 「不可能じゃない…可能」 マジかよ…。 「じゃ、朝比奈さんのはどうなんだ」 「それは、多分…僕達の世界を閉じ込めようとしてるのでしょう」 閉じ込める? 「えぇ、朝比奈さんや長門さんの通信を遮断したら、上の命令は来なくなるでしょう」 と言う事は、朝比奈さんは未来や過去へ行けないし、長門は主の許可を受ける事が出来ないのか!? 「えぇ、そうですよ」 何でこった…。 俺は、足が抜けたように、この場で座ってしまった。 そうだ、ハルヒさんのはどうなんだろうか。 「どうするんですか、ハルヒさん」 ハルヒは、目を閉じたまま座っていた。 何分経ったのだろうか、ハルヒ(大)はゆっくり目を開けた。 「…私のなら問題ないわ」 どう言う事だ。 朝比奈さんはダメだったのに、ハルヒさんは大丈夫なんだ。 「多分、向こうの朝倉さんは未来の涼宮さんがいる事は知らなかったのではないのでしょうか」 説明ありがとう、古泉。 しかし、朝倉って間抜けな所あるんだな。 「でも、キョン君…朝倉の事は油断しないで、いい?」 はい、分かってます、ハルヒさん。 キーンコーンカーンコーン… 昼休みが終わる合図が鳴ったな。 そろそろ教室へ戻らないと…。 「待って、キョン君」 部屋を出ようと思ったが、ハルヒ(大)に止められた。 「何ですか、ハルヒさん」 ハルヒ(大)は少し溜息してから言った。 「今の時代の私の事を頼むね」 と、笑顔した。 未来の女の人って眩しいなぁ。 「えぇ、分かってます!…では」 「いってらっしゃい」 俺は、自分のクラスへ急いだ。 やれやれ…教室にいるハルヒに何か言われるだろうな。 「…とにかく、みくるちゃんの代わりに…私が止めないとね」 窓の外を見るハルヒ(大)。 「朝倉、こんな事するなんて…許せないな...」 午後の授業が終わり、放課後。 部室へ向かってる途中に誰がいた。 「おや、キョンくんじゃないか」 何だ、鶴屋さんですか。 「あ、こんにちわ」 「やぁ、どしたのさ!暗い顔してるよっ!」 暗い顔?近くにある鏡を覗いて見た。 確かに、暗い顔になってる。 「何かあったのかぃ!良かったら、あたしに相談するかいいよっ!」 朝倉がまだ生きてる事で少しショック受けてたんだな…俺って。 「いいえ、特に何でもないんですよ…えー、ほら!授業の疲れですよ」 「そうなのかぃ?あたしは、めがっさ頑張ってるにょろ~!」 ケラケラ笑う鶴屋さん。 「では、俺は部室へ向かいます」 「ちょっと待つにょろ!」 「何です?」 鶴屋さんの顔が真面目顔になった。 何か深刻な事でもあったのだろうか。 「…スモークチーズあるかぃ?」 何だ、それかよ。 「……」 「……」 「…ありません!」 「にょろ~ん…」 さて、どうしたものか…。 向こうの世界に朝倉がいるとすれば、ここの世界も影響する。 朝比奈さんの時間転移出来ない、長門の主の許可も出来ない。 そうなれば、この世界は孤立されると言っていいのだろうか。 頼れるのは、あのハルヒ(大)の通信だけか。 古泉が言った通り、時間Aと時間Bは俺達の知らない世界…つまり、パラレルワールド と呼ばれる世界である。 パラレルワールドとは、俺達がいる世界から複数の道がある。 どんな未来が待ってるのか、俺も知らない…。 ハルヒがいない世界なのか、超能力者や宇宙人に未来人がいない世界なのか…色んな世界がある。 話を戻そう、朝倉はどうやって攻めて来るのか考えてみた。 向こうから来る可能性あるかもしれない…向こうに居ながら、この世界を潰すかもしれない。 いずれにせよ、自分で確かめるしかないのだ…そうだろ、朝倉。 「なーに、考えてるのよ?」 うぉぅ!び、吃驚した…なんだハルヒじゃないか。 「挨拶もノック無しで入るなんで、キョン…あんた変だよ」 周りを見れば…古泉が盤ゲームしてる。朝比奈さんはお茶入れをしてる。 長門は静かに本を読んでいる…ここは、SOS団室だ。 …考え事をしながら部室へ向かってたんだな。 「すまない、俺は考え事をしてたから気付かなかったよ」 もし、朝比奈さんが着替え中だったら、恐ろしい事になってたな。 「そう…で、何を考えてたの」 「何でもいいだろ、別に大事した事無いぞ」 まぁ、大事した事あるけどな。 「そんなに考えて気付かないなら、深刻な事あったと見えるわ」 ちっ、鋭い。 「事情あったからな、考えてたんだ…お前には関係ない」 ハルヒは、仏頂面で唇を突き出した。 「むぅ~…」 そんな顔したって無駄です。 ハルヒのマシンガン発言は流して、長門を見た。 「……」 長門の瞳は、今にも吸い込まれそうな眼をしている。 長門は、俺が見てるのを気付いた。 そして、長門は俺に向かって言った。 「気を付けて」 何を気を付けろと? 「来る」 WHY? クニャリ… な、何だ!く、空間か! そうだ!ハルヒ! 慌てて、周りを見ようとしたが。 「っ!?」 俺は、どんでもない恐怖感が来てしまった。 そう、俺だけ残された…。 一緒に居た古泉や朝比奈さんや長門はいない。 ハルヒもだ。 「そんな…そんなバカな…」 誰もいない空間、まだ夏は残ってるのに寒い、暗い…。 何だ…ここは…。 怖い、何だが怖く感じる。 そうだ、誰がいるのか確かめないとな。 「おーぃっ!誰がいるのかーっ!」 ………… …誰もいない、どうすればいいんだ…。 「長門ーっ!朝比奈さーんっ!古泉ーっ!ハルヒーーっ!」 ………… やっぱり、いない。 くそ、どこ行けばいい…。 周りは暗い、どっちが北なのか分からないぐらい暗い。 どうしたらいいんだ。 「ふふふふ、困ってるみたいね」 この声は! 「私よ、覚えてる?」 この声の主は、朝倉涼子だ。 何でこんな所にいるんだ。 「あら、驚いて声が出ないの」 そりゃそうだ、一度、消滅したはずの朝倉がここにいるからな。 取りあえず、話してみようか。 「お前は、何故こんな所にいるんだ?」 「パラレルワールドから来たと言っていいかしら」 なるほど、パラレルワールドから来たと言うのか。 「ハルヒ達はどうした」 朝倉は少し笑って言った。 「大丈夫よ、皆、向こうにいるんだから」 俺が居なくなってるのを慌ててるのだろうか。 「それに、あなたは寝てるだけよ」 じゃ、ここは夢だと言うのか。 「もう誰もココへ来ないわ」 いつの間にか、あの時のナイフを持ってやがる。 冗談じゃねぇ、前のようには行かないのかよ! 「ふふっ、う・ご・か・さ・な・い・で・ね」 しまった、アレが!動きを止める奴か! 「さぁ…行くよ」 朝倉はナイフを構えて突進した。 「なっ!?」 動け!動けよ!俺よ!動いてくれよ!動け…。 「動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 俺は思わず叫んだが、どの道、死ぬだろうな。 はは、もうダメだな…。 ガッ! って、あれ?痛くないぞ。 朝倉の手にはナイフ持ってない? 俺の位置から、ちょっと離れた所にナイフが落ちてた。 一体、誰がやったんだ。 「大丈夫?キョン君」 「ハ、ハルヒさん!どうしてここに…」 まさか、ナイフを飛ばしたのはハルヒ(大)だったのか。 「あなたのプログラムはまだ甘い」 長門!ん、待てよ。 「長門、主に許可出来なかったんじゃないのか?」 「それは、私が言うわ」 長門の代わりにハルヒ(大)が説明してくれるとはな。 「どういう事です?」 「私のいた時代は、古泉君の『機関』と有希が入ってる集団とみくるちゃんがいる集団…その3つの集団を 私の力によって、同盟する事に成功したの」 へぇ、それは良かったな。 「それで、私のを使って有希の主に呼び出して話し合った結果、許可出来たのよ」 それでか…。 「どうして、あなたがここにいるの」 朝倉は長門の方へ睨んだ。 「私がここにいるからよ」 そのお陰で助かった。 まだお礼しないとな。 「あなたは誰よ」 朝倉の目を長門からハルヒ(大)へ移した。 「私は、未来から来た涼宮ハルヒよ」 「な、何で!?」 「あんたは、私がここにいる事を知らなかったのようね」 朝倉は俯いて、そのまま座った。 「私の負けね…いいわ、元に戻してあげる」 朝倉は、悲しい顔して言った。 俺は、どうしてこんな事をするのか知りたかった 「朝倉…何故こんな事をしたのだ」 「私は、あなた達がいる世界が羨ましかっただけ…でも、もういいや…」 朝倉は顔上げ、俺の方へ向いた。 「これは私の我侭だから、じゃあね」 別れを付け、異世界から飛ばされた。 俺は一瞬見たのだ…笑顔しながら泣いてる朝倉を…。 目覚めた時は、もう部活終わった頃だった。 「起きた?」 窓の側に本を読んでる長門がいた。 「あぁ…朝倉はどうなったんだ」 「朝倉涼子は、先ほど別世界へ帰った」 そうか…帰ったんだな。 「それに、通信も回復した」 「…朝比奈さんもか?」 「そう」 そうか、やっと終わったんだな…だけど、朝倉とは、いつか会えるような気がする。 「なぁ、長門」 長門は本を読むのを止め、こっち向いた。 「朝倉と別れて悲しかったか?」 「…少し」 翌日、ハルヒ(大)に会って話した。 「ハルヒさん、やる事はもう終わりましたね」 「そうね」 ハルヒ(大)は、わぁ…ここ懐かしいなぁと思ってるように眺めてた。 「この後どうするんです?」 「そうね…三年間、ここに居る事にしたの」 一年間も!? 「懐かしいから、ここに居たいだけだもん」 そんな理由で!? 「それに…」 ハルヒ(大)は俺に向かって、目を細めた。 「この時代に居る私を守ってね?」 ハルヒ(大)のウインク攻撃! くぬっ!マジでくたばる五秒前だぜ! 「分かりました、必ず守ります」 だって、前から決心してたもんな。 「そっか、それと…いい加減に告白したら?」 「な、何でですか!」 「この時代の私の事、好きなんでしょ?」 からかないで下さいハルヒさん。 「な、何を…バカな事を言ってるんですか!」 「あはははは、キョン君かーわーいーいー」 ずっと、からかうハルヒ(大)。 …無視しよう。 ビリリッビリリリッ お、電話だ。 ポケットから取り出して見ると、ハルヒからの電話だった。 「もしもし、今すぐ、いつもの場所へ来て」 「了解、団長さん」 「いいわね?遅かったら、死刑だからね!」 やれやれ…告白するのはまだ遠いと思うけど、それまでハルヒの側に居たい。 ハルヒがいると、楽しい事が起こるからな。 感謝してるぞ、ハルヒ。本当はお前の事が好きだからな…。 だから、いつか告白しようと思ってる。 「あぁ、分かってるよ、ハルヒ!」 その後、ハルヒ(大)は英語の教師として働いてる。 俺達は、いつものように活動してる。 …告白するのはいつだろうな。 「やれやれ…」 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4868.html
手遅れだった。色々と。 「長門!?」 「大丈夫。情報統合思念体との連結が途切れているだけ」 どこら辺が大丈夫なのか小一時間問い詰めたいが、長門だから許そう。かわいいとは正義なのだ!なんて親馬鹿やってる場合じゃねえ。長門は団活時の四割り増しの無表情をしてちょこんと座席に座っていたが、俺の長門センサーはいつ倒れてもおかしくない状況だと大音量で警報を鳴らしている。これじゃあまるで雪山の再来だ。すぐにでもヒューマノイド・インターフェイス用の病院に担ぎ込みたいが、あいにくと住所が分からん。 「連結が途切れてるって、この空間のせいなのか?」 「そう。涼宮ハルヒの発生させた異空間は情報統合思念体からのいかなる干渉も一切受け付けない。原因は不明。情報統合思念体は自らの統制下にない空間が広がることに危機感を抱いている。よって主流派を含む大多数の派閥はあなたに事件解決の望みを託すことを決定した」 ヘリのメインローターの出す音にかろうじて対抗できる音量で長門は言葉をつむぐ。大いなる宇宙の意思をもってしてもドナルドランドの城壁は破れないのか。はっはー。責任重大だね、俺。猛烈に逃げ出したくなるが、ここは住宅地上空約十メートル。さすがに責任を放棄してあの世へ逃げるのは気が引けるな。 「わたしもこのインターフェイスの体力が続く限り支援する。頑張って」 やれやれ。儚い顔をしてそう言われると、身体中の虚勢をかき集めてでも俺に任せておけって宣言したくなっちまうじゃないか。やるっきゃないのかね、まったく。 ところで、ここで一つの懸念がある。このヘリコプターの中には俺の他にパイロット二名、古泉、森さん、新川さんの機関トリオ、そして長門以外にもう一人乗客がいるのだ。失礼ですが、なぜあなたが乗っているんですか、朝比奈さん? 「ふぇっ?わたしですか?」 ドナルドにF-15だかF/A-18だかが放ったミサイルが命中して爆発四散する光景をかわいらしいお口を半開きにして眺めていた朝比奈さんが、意外そうな声を上げて振り向いた。ゆっくり時間をかけて俺の言葉の意味を飲み込んだ朝比奈さんは、少しばかり誇らしげにボリュームのありすぎる胸を張って答えた。 「それはもう、SOS団の団員であり、時間の歪みの監視係であるわたしが、涼宮さんのピンチに何もしないわけにはいかないじゃないですかぁ」 毎日のように朝比奈さんをいじくり回しているどこぞのアホに聞かせてやりたいお言葉である。ただ、正直なところそれは気持ちだけに留めておいて、行動に移しては欲しくないのである。戦地へ赴く兵士の心境である俺にとっては、朝比奈さんは前線へ共に出るよりは、後方で精神的支援をしてくれた方がありがたいのだがな。 声帯から先には出さなかったが、俺の考えていることを大方察知したらしく、朝比奈さんは慌てて懐から何かを取り出した。 「ほらほら、今回は特別に武器の携行まで許可されたんですよ。この細胞分解銃でドナルドさまをマックシェイクにしてやるのでしゅ」 すみません。その御手にお持ちのスペシャルらしい武器は、市販のドライヤーにしか見えませ・・・・・・ん?マックシェイク? 「ふっ!ふっ!ふふぅっ!ドナルドは嬉しくなると、ついやっちゃうんだぁ!」 「未来がドナルドに侵食された。下がって」 狭いヘリの中でどうやって下がるんですか、長門さん?などとつっこむ余裕は無かった。ハリウッド映画のCG技術の高さには前々から驚いていたが、やはり実物にはかなわないことを身をもって教えられちまった。朝比奈さんのふっくらまるいお顔がいびつになると、髪はトマトケチャップのような赤に、唇の赤も周囲に広がり、すけるような色白の肌はペンキを塗りたくったようなわざとらしい白へ。可憐な未来人は世にも奇妙なピエロへと変身を遂げた。この間たったの三秒。いかん、チビっちまった。 とてつもなく恐ろしいものを片鱗どころか丸ごと味わった俺は指先をピクリとも動かすことが出来ない。機関のメンバーでさえ石化呪文をかけられたかのように微動だにしない。パイロットが操縦ミスをしないことを祈る。 そして、まただ。また、俺の方を向いて笑いやがった。言い知れぬ恐怖に俺の心臓をつかまれ、とっさに目をつむった。ドナルドよ、そんなに俺が好きなのか?俺なんかよりも古泉の方がずっとお前の趣味に合うと思うんだが。 「もぉりもりっ!!」 長門の唱える超早口呪文よりも、森さんと新川さんが銃を発砲する音よりも早く、ドナルド・朝比奈は意味不明な雄叫びが聞こえた。今度こそ終わりだ。さらば、俺の人生。もしくは尻穴バージン。もっと長く付き合いたかったよ。特に後者は一生離別したくなかったぜ。 俺は不本意ながらも覚悟を決めた。だが、感じたのは鋭い痛みでもなく不快な血の臭いでもなく、耳をふさぎたくなるような金属音と不燃ごみを燃やす時の嫌な臭いだった。 ゆっくり目を開けると、そこには右手を長門に噛み付かれて封じられているドナルドがいた。左手は謎の黄色い物体を撃ち出しているが、機関の三人が飛びついて上を向かせているさすがに元が朝比奈さんだと銃を撃つのはまずいと判断したようだ。 「ふぁきらめへはらめ」 嫁入り前の女の子が人に噛み付きながらしゃべっちゃいけません。はしたない・・・・・・じゃないな。恥じるべきは何も出来ないでビビッてた俺の方だな。 「いえいえ、あなたにはこれからあなたにしか出来ない仕事をしてもらいますからね。こんなことで手を煩わせるわけにはいきませんので。マッガーレ!」 俺の方を向きそうになったドナルドの左手を捻じ曲げて上を向かせながら古泉が言う。古泉、うるせーよ。ちょっとジーンときちまったじゃねえか。 こうなったら意地でもあの電波少女を正気に戻して、熱血スポ根アニメの最終話みたく地平線から昇ってくる朝日を拝まないといかんな。もちろん、SOS団全員そろってだ。 「生体機能抑制型ナノマシンを注入した。これで朝比奈みくるは涼宮ハルヒを救うまで動かないはず」 散々暴れていたドナルドがついにひざを付いてホッとしたのもつかの間、今度はやばそうな警報が鳴り響いてヘリが機首がお辞儀をしたように下を向いて落下し始めた。つくづく、展開に飽きない夜だ。 「第一エンジン停止!第二エンジンも出力低下!高度が保てない。スーパー61墜落する!」 パイロットが叫び声を上げた後ろで「ブラックホークダウン!ブラックホークダウン!」という叫びも聞こえた気がしたようなしないような。ここはソマリアか? 「まずいですね。天井の上にエンジンがあることを失念していました」 天井はドナルドの攻撃によって見るも無残に穴だらけにされていて、そこから黒い煙が噴き出している。おいおい、黄色い物体の正体はフライドポテトかよ。某乱暴な方は弓矢でヘリを落としていたが、最近のヘリは食い物ごときで落とせるほどひ弱になったのか? 「いやあ、あなたの尻を守るのに必死だったのでゲフッ!」 古泉てめえ。俺の感動を返しやがれ。 「すみませんでした」 森さんに銃尻で殴られた古泉は素直に頭を下げた。いや、森さん。正確にはあなたと新川さんも同罪だと思うんですが。それ以前に、墜落寸前のヘリの中で漫才まがいのことをやっている俺ってかなり逝っちまってるな。これもハルヒの電波を受信しちまったせいか。 「本日はエスパーエアライン、スーパー61便をご利用いただきまことにありがとうございます。残念ながら当機はエンジントラブルのため不時着を敢行いたします。当機にはエアバックが装備されていませんので、手近なものにつかまって衝撃に備えてください」 さすが機関クオリティ。パイロットも肝が太いな。そう考えたところで俺の意識はブラックアウトした。 「お目覚めですか?」 目を開けると十センチ先に古泉の顔があった。息が鼻の頭に当たって実に気持ち悪い。 「最悪の目覚めだ。何よりもお前が生き残っていることが不快だ」 「きつい挨拶ですね。しかし、我々がこうして生きて軽口を叩き合っているのは長門さんのおかげですよ」 古泉が顔を向けた方向には・・・・・・なんてこった。ドナルド・朝比奈さんと仲良く床に寝ているヒューマノイド・インターフェースがいるではないか。長門!しっかりしろ! 「ヘリコプターの落下速度の情報操作で処理能力を使い果たした。これ以上の支援は無理。ごめんなさい」 血の気が引いて真っ白になった顔で、それでも長門は俺に謝った。己の力が及ばないことを。長門のせいじゃないのに。ええいくそっ、長門が謝ることないだろ。悪いのはあの暴走女と狂気の道化師だ。 「今回の暴走は彼女の意志とは関係ない。だから、彼女を悪く言ってはだめ。早く助けてあげて。それに彼女の願望を具現化する能力を使えば今夜の出来事をなかったことにすることも可能。SOS団のためにも、お願い」 くっ、すまない。長門。元に戻ったら図書館でもどこでも好きな所に連れて行ってやるからな。長門はミリ単位でゆっくりとうなずき、身体に残る生命力を全てつぎ込むようにして最後の言葉をつぶやいて、目を閉じた。 「また、マクドナルドに」 一番美味しいところを持っていきやがって。ドナルド・マクドナルド。俺は貴様を絶対に許さねえ。心の中で燃え上がる紅蓮の炎を感じながら、隣に立っている超能力者に尋ねた。 「古泉。ここは・・・」 どこだ、は喉から出てこなかった。ついでに炎も一瞬で消えちまった。俺は無傷で不時着したヘリがドナルドどもに包囲されていることに気づいちまったんだ。百や二百じゃすまねえ。千人以上の同じ姿をした化け物に囲まれているという、ある意味壮観ともいえる光景だった。例えるならグランドキャニオンあたりが妥当だな。すまん、俺自身も何を言いたいのかさっぱり分からん。 「ここは北高のグラウンドですよ。我々は無事に目的地に到着することができました。喜ばしいことなのですが、同時に人生最大のピンチを迎えているといっても良いでしょう。なにせ弾の数よりも敵の数が多そうですから」 さしもの古泉も引きつった顔をしながら答えた。両手で握っている銃も心なしか震えているように見える。俺はどうなっているかって?聞くな。でかい方は漏らしていないと思うが。 「ハハハハハ」 「ヒャハハハ」 ドナルドどもの笑い声が鼓膜を乱打する。やめてくれ。これじゃあ、普通に襲われた方がまだましだ。気が狂うのが早いか、それとも洗脳されるのが先か。そんな競争真っ平ごめんだ。 「ハハハハハ」 「ヒャハハハ」 しかし、なぜかドナルドは俺たちに襲い掛かろうとしない。何かを待っているかのようにひたすら笑っているだけだった。いい加減、銃を構える森さんたちも辛くなってきただろうと思ったとき、そいつは現れた。 「キョン?キョンなの!?」 救世主か、それとも破滅の使者か。ドナルドの群れをかき分けてハルヒが走ってきた。良かった。朝比奈さんみたいにドナルドに変化していない。むしろ、マクドナルドの女性店員用制服がかわいいぜっ!・・・・・・俺はこんなときに何を考えているんだ。 「ほら、主演男優の出番ですよ」 古泉以下機関の皆さまに押されるがままにヘリの外に出てハルヒと向かい合う。正直に告白しよう。ハルヒを説得して正気に戻す方法なんていっさら思い浮かばなかったね。ショック療法として頭を目いっぱい叩く以外はな。ショック療法は最後の手段として取っておくことにして、とりあえず会話を試みてみた。 「よっ、よう、ハルヒ。あー、元気か?」 「元気!すっごく元気よ!ドナルド様のおかげでね!!」 ああ、ハルヒよ。お前はなんて濁った目をしてるんだ。漫画等で狂った描写として目が濁って描かれることがあるが、まさか本物にお目にかかれるとは思ってもみなかったぜ。俺のある種の嬉しくもない感動に関係なく、ハルヒの開閉装置が故障した口からは猛毒の電波が発信されまくっていた。 「ドナルド様はね、プラトンに師事してイデア界を知覚することによってフライドポテトの箱舟を作り道に迷ってたモーセ一行を助け出してマックシェイク律法を与えられそれをキリストに教えることでキリスト教の影の支配者になってウパニシャット哲学とピクルスを生み出し輪廻からの解脱を果たしてムハンマドのラクダに孔子と一緒に乗ってヒマラヤの奥深くまで行きそこで瞑想をしてハンバーガー四個分の悟りを開くことによってマクドナルド教の教祖となったのよ!」 こいつは逝っちゃってるね。脳みその隅々までケチャップ漬けにされちまってやがる。この症状ではブラックジャックもさじを投げそうだ。俺もさじを投げて500キロくらい離れた場所に行きたいが、残念ながらハルヒに腕をつかまれちまって逃げることすらできない。 「さあ、あたしについてきなさい。キョンも最上至極宇宙第一のビックマックを食べればドナルド様、教祖様のすばらしさが心に刻み込まれるはずよ!」 よし決めた。俺は昔から力の出し惜しみが嫌いだったんだ。アニメの戦闘シーンで主人公が最強の技をなかなか使わないと、そのつど心の中で悪態をついてた性質でね。最終兵器を使うタイミングは今しかないと見た。 「ハルヒ、少しの間だけ唇を借りるぞ」 「ちょっと。ドナルド様は・・・んっ!?」 うへっ、こいつの口の中チーズバーガーの味がする。このチーズの味の割合の多さからかんがみてダブルチーズバーガーだな・・・・・・いかん、俺もドナルドに洗脳されかかっているようだ。ついでに視界の端に般若のような形相をした古泉が見えたような見えなかったような。でも、もうそんなこと関係ねえ。これでクソったれな世界ともおさらばだぜ。ほら、目を覚ませばそこは俺の部屋。フロイト先生が墓からよみがえって腹を抱えて笑っている・・・ 「何すんのよ、こんのエロキョン!!」 「あべしっ!?」 ハルヒのグーパンチによって左頬をしたたかに殴打された俺は、待ち焦がれた自室のベッドの上ではなく埃っぽいグラウンドの上に倒れ伏した。俺に馬乗りになってさらに殴りかかろうとするハルヒを、森さんたちが慌てて羽交い絞めにしてなんとか引っぺがした。やれやれ。同じ手は二度は通じないか。無念、ガクッ。 「大丈夫ですか?」 心なしか嬉しそうな微笑をたたえた超能力者が近づいてきて地面と密着している俺の顔を覗き込んだ。うるさい。声をかけてる暇があったら超能力らしく力を使って俺の痛みを和らげてやがれ。 「前にもお話したとおり僕の超能力は閉鎖空間限定、しかも攻撃専用なのであなたのご要望にはお答えできませんよ。ですが、この世の全ての苦痛を癒すことのできる熱いキスなら・・・」 「さて、ドナルド地獄から脱出する方法を考えようか」 「スルーとはひどいですね」 変態超能力者を振り切るために軽いノリで言ってしまったが、はて、どうしたものか。最終兵器はハルヒを正気に戻したもののそれ以外は変わらないという、なんとも中途半端な効果しかなかった。こうなったらハルヒの頭を記憶がなくなるまでタコ殴りにするしか、ってありゃ?さっきまであれほどいたドナルドが一人もいないじゃねえか。ハルヒが正気になったから消えちまったのか? 黄色い道化師どもの姿を探してきょろきょろしていると、羽交い絞めからハルヒが駆け寄ってきた。すわ、殴られる!と思って反射的に身を引いてしまったが、俺にぶつかってきたのはコンクリート並みの強度を持つ拳ではなく、予想外の言葉だった。 「キョン!ごめんなさいっ!」 しばし呆然とした。あの傲慢なことで右に出るものはいない涼宮ハルヒが頭を下げて謝っていた。一生のうちそうそう見られない姿だと判断した俺は、すかさず脳内カメラのシャッターを切って厳重に保存した。 「キョンはSOS団の調査が始まったことに恐れをなしたマクドナルドが、急遽発動した人類ハンバーガー計画によって囚われの身になってしまったあたしを助けるためにみんなと一緒に活躍していたのね。あたし、洗脳解除の方法がワクチンの口移しだなんて知らなくて。本当にごめん」 森さん。あんたらいったい何を吹き込んだんですか?ドナルドの洗脳の影響が残っているらしいハルヒは、どうやら頭の中がお花畑になっているようだ。電波を出すのは携帯までにしてくれ。ハルヒを落ち着かせるために声をかけようと口を開いた瞬間、世界で最も聞きたくない声を何の構えもなくダイレクトに聞いてしまった。 「こんにちばんはぁ!」 反射的に声のした背後を振り返ると、今夜何度目になるだろうか?世にもおぞましい光景がそこに広がっていた。ドナルドを中心に。 「これかっ?これかっ?これかこれかこれかぁっ!?」 校舎の屋上に集結した千人規模のドナルドどもは、謎の掛け声と共に融合を繰り返して一体の巨大なドナルドになろうとしていた。はっはー。ここまできたら笑うしかねえ。 「我々超能力者の涼宮さんの状態を確認する能力によって分かった良いニュースと悪いニュースがあります。どちらを先に報告しましょうか?」 真っ青な顔をして、それでもゲイ人根性なのか微笑んでいる古泉が嫌な選択問題を出してきた。悪い方を先に頼む。悪いニュースを後にしたら良いニュースとの落差による衝撃で、立ち直れなくなるか心臓発作を起こしそうだ。 「いいでしょう。まずは悪いニュースからです。どうやら涼宮さんの願望を実現する能力によって急激に強大化したドナルドは、そのコントロールを完全に離れて独立して存在できるようになってしまったようです。つまり、涼宮さんが正気に戻ってもドナルドは消滅しなくなったというということです。こうなったら涼宮さんが全力で今夜の出来事は夢だと願わない限り消滅しないでしょうね。しかも、願望をかなえる能力を吸収して存在のさらなる強化を行っているように思えます。ドナルドの願望がかなったとき、地球はハンバーガーになりかねません」 じゃあ、あの馬鹿みたいにでかいドナルドは何なんだ? 「異空間内に展開した部隊から入った情報によると、涼宮さんが正気に戻ったのと同時刻に交戦中のドナルドが消失したそうです。よって、あそこの巨大ドナルドはドナルドの全てだと思われます」 わけが分からんが、SOS団唯一の文芸部員長門有希女史ならこう表現するだろうな。ドナルド・マクドナルドは自律進化を遂げた、と。 ドナルドが一体になることで重量が一点に集中しすぎたのか、校舎にひびが入ったかと思うとあっという間に崩壊してしまった。飛んできた破片の一つが俺の頬を切り裂いて擦過傷を作る。これは夢なんだと信じたい淡い願望が流れ出る血によって打ち砕かれる。 「次は良いニュースです。涼宮さんが正気に戻ったので異空間の膨張が停止しました。それと、自衛隊とアメリカ海軍がドナルドに対して総攻撃をかけると機関本部から無線連絡がありました。どれだけダメージを与えられるかは不明ですが、危険ですので早いとこドナルドから離れた方がよろしいかと」 「驚いた?ドナルドは君のことが大好きなんだよ」 ドナルドは俺たちのほうを向いて地の底から響き渡るような声をだした、いや、もはや怪獣のうなり声に近いな。我ながら情けない話だが、怖くて足が言うこと聞かねえ。今のドナルドと比べたら、ナイフを持った朝倉なんか水たまりで泳ぐミジンコだぜ。 蛇ににらまれた蛙みたいに恐怖で一歩も動けない俺たちに向かってドナルドが足を踏み出そうとした、その時、歴史が動いたかは知らないが空気を切り裂く音がして、その一瞬後にドナルドの身体に炎の花が咲いた。 「アーロッ!」 またまたドナルドは謎の叫び声を上げるが、そんなことお構いなしに爆発は続き、上空を飛び回っていた戦闘機も一斉にミサイルを放つ。俺たちが立っているところまで熱い空気が届き、皮膚をしたたかに焼く。 「巡航ミサイルと空対艦ミサイルです!早く安全な場所まで退避しましょう!」 んなこたあ分かってるよ!訓練を受けてるお前と一般市民を一緒にするんじゃねえ。やっとのことで地面から足を引っぺがすと、ドナルドに向けて元気良く罵詈雑言を発射するハルヒの腕をつかんだところで違和感に気づいた。 ドナルドは次々に命中するミサイルをものともせず、余裕とも取れる笑みさえ浮かべていやがった。そして、両手を胸の前でクロスさせて右肩に左手のひら、左肩に右手のひらを置いて、何やら呪文のようなものを唱え始めた。 「ラン・・・」 !!俺の全本能が警告した。こいつは絶対にやばい!理性もその意見に全面的に賛成だった。なんならお年玉と小遣い一年分をかけてもいいくらいだ。理性と本能に従った俺は、反射的にハルヒを抱えて地に伏せた。ハルヒの胸がぷにゅーんとなったがこんな状況じゃ喜べねえ畜生! ハルヒにボカボカ頭を殴られてどうにかなりそうだが、ドナルドの方は呪文の次の段階に入ったらしく、胸の前で両手を合わせた。 「離せあほ!やっぱりエロキョンじゃない!あたしの謝意を返せっ!」 「ラン・・・」 ハルヒの願望をかなえる能力が働いたのか、俺たちの目の前にキングサイズの豪華なベッドが出現した。こんなときに何を考えてやがるんだ?出すならせめて核シェルターくらい出しやがれ。ふかふかでやわなベッドよりまだ使える。 とにかく、無いよりはましだとぎゃーぎゃーわめくハルヒを引きずって古泉と一緒にベッドの後ろに隠れた刹那、耳をつんざく狂気の雄叫びが地を震るわせた。 「ルウウウウウウウウウウウウッ!!」 ランランルーって何なんだぁ!?ドナルドが何かを召還するかのように両手を天高く掲げると、強烈な衝撃がキングサイズベッドを襲い、地が波打ち、空が真昼間のごとく光って俺の網膜を焼いた。某特務大佐よろしく「目があ~目があ~」とやりたいところだが、そんなジョークをかます余裕はどのポケットを探してもねえ。 チカチカする目をかろうじて開けると、ちょうど倒壊をまぬがれていた校舎が文字通り全てはじけ飛んだところだった。ついでに逃げ遅れた森さんと新川さんが吹っ飛ばされてヘリに衝突、そのまま二人と一機は仲良く駅の方向へ消えていった。ああ、助けることのできなかった非力な俺を許してください。必ずやハルヒをけしかけて仇をとってみせます。 ドナルドの雄叫びが静まる頃には、数分前まで我らが母校北高が存在していた敷地はハルヒのチートパワーで生き残ったベッドを除いて一面更地になっていた。さらば我が学び舎、か。ストレスの象徴が消えて嬉しいというか、一抹の寂寥を覚えるというか。いやはやこの気持ちは何だろうね。岡部あたりに聞いたら答えを教えてくれるだろうか。 「ははは。航空部隊は全滅。第七艦隊もドナルドの力でハッピーセットにされてしまったようです」 古泉が無線機らしきものを片手に持ちながら乾いた笑い声を出した。ハッピーセット? 「ええ。空母キティーホークがハンバーガーに、揚陸指揮艦ブルー・リッジがおまけの玩具、イージス艦カウペンスがフライドポテト、シャイローがコカコーラ、カーティス・ウェルバーが・・・」 「それ以上は言わんでいい」 古泉の口調がだんだん危なくなってきたので適当なところでやめさせる。さすがの変態力者古泉もドナルドの攻撃に耐えられず神経回路が焼き切れちまったか。だがしかし、平々凡々人である俺の灰色の脳細胞はむしろ活発に働いていた。 昔から胆の太さが自慢だったが、どうやら短期間の内に脳の許容範囲を超えた衝撃と恐怖を受け続けたせいで、大切な部分のネジがどこか遠くへ旅立ってしまったようだ。ニューロンが全部パーン!しちまったのかもな。まあ、とりあえずそのことは置いておいて、今はニトロを投入されたエンジン並みのフルパワーで運転中の脳みそから導き出された結論を実践するのみ。すなわち、日常的な攻撃が効かなければ、非日常的な攻撃あるのみ、ってことだ。 「ハルヒ!」 仕事を成し遂げたようなある種の満足感に満ちた顔をしているドナルドと対照的に、腰を抜かして顎が外れちまったみたいに口を開いているハルヒを呼ぶ。呆けてる暇は無いんだぞ。さあ、お前の持っている普段はいらない子のとんでも神様パワーが必要なんだ。 「何よっ!?」 目に涙をためて恐怖を打ち払うようにしてハルヒが怒鳴り返してきた。ランランルーの衝撃が激しかったようだが、あえて無視する。 「特撮でかませ犬の軍隊がぼこぼこにされた後に出てくるのは何だ?」 「はあ!?こんなときにあんたは・・・」 「いいから、早く答えてくれ!」 俺の気迫に押されたのか、ハルヒはわけが分からないって顔をしつつも顎に手をやり思案を巡らし始めた。 「特撮でかませ犬の後?んー・・・・・・CM?」 「IAIのラビ。このラビはですね、今までも何度かご紹介させていただいたことがありましたが、今日はデジタルカメラをセットにしてなんと129,800円なんです!130,000を切りました!」 ハルヒの背後に怪しい臭いがぷんぷんする通信販売のスタジオとおっさんたちが現れ、最新機種らしいパソコンの紹介を始めた。まったく、惚れ惚れするような能力だ。 ふう。焦るな、焦るなよ俺。答えを教えてはだめなんだ。ハルヒが自分で気づくように誘導してやらんと。吹き出た汗で気持ち悪くなった手を握りなおして頭を振る。 「違う違う。もっと基本的なところに戻るんだ」 さあ、虹色のお花畑、じゃなくて虹色の脳細胞をフル回転させるんだ。お前の大好物だろう?この手の話は。 ハルヒはまた悩み始めたが、それほど長くはなかった。ハルヒは風呂に入って物理の法則を発見したときのアルキメデスのような顔をして、にやりと唇を曲げてから高らかに勝利宣言を行った。 「答えは正義の味方ね!」 残念ながらハルヒの宣言を最後まで聞くことはできなかった。俺たちの前に出現した巨人の着地音に遮られてしまったからだ。吹き荒れる砂煙の先に見えたのは光り輝くハルヒの妄想の産物。正確には・・・・・・あー、どう表現すればよいのだろう。神人と某マクドナルドのライバルファーストフードチェーンのマスコットを合わせた姿、ということにしておこう。意味が分からない?分からないやつはフライドチキンを買いに行け。店頭で似たようなやつの縮小版が出迎えてくれるはずだ。とにかくこいつをカーネルマンと仮称しよう。 「やあ、おはよう」 馬鹿丁寧にハルヒが答えを出すまで手を出さなかったドナルドは、またしても馬鹿丁寧にカーネルマンに挨拶した。ここは化け物の余裕だからこそなのか。 「お話しようよ」 「サンダースッ!」 互いに人間には理解できない宣戦布告をしてファイティングポーズをとるドナルドとカーネルマン。彼らは決して相容れることの無い存在。どちらか一方が滅びるまで戦い続ける、張り詰めた空気がそう教えてくれた。ヘーゲルの弁証法的に言えばテーゼとアンチテーゼみたいな関係か。ジンテーゼに止揚することはないだろうがな。 二人の間を一陣の風が吹き抜ける。俺もハルヒも古泉でさえも微動だにしない。固唾を呑んで決戦の始まりを待っている。たとえ踏み潰される危険性が高いことが分かっていてもだ。決してビビッて身体が動かないわけではない。そんな体験、一生に何度もあってたまるか。 「ランランルー!」 「チキン光線!」 ドナルドに一瞬遅れて正義の味方が力を解放する。目を覆いたくなるような閃光、油臭い衝撃波が俺たちを包む。いかん、吐き気がしてきた。 「フライドォッ!?」 「きゃあっ」 「ぬおっ」 呪文が一文字多い。ただそれだけ、あるいはその致命的な差が勝負を一瞬で決定付けた。 激しい力と力のぶつかり合いに負けたカーネルマンが俺たちの頭上を飛び越えて、毎日俺が汗水たらして上ってくる道を掘り返しながら山のふもとの住宅地に突っ込んだ。なんてこった。カーネルマンがやられちまった。 「ドナルドは涼宮さんの願望を実現する能力を吸収しました。いえ、現在でも吸収し続けています。あなたの言うカーネルマンが敗北したということは、既にドナルドの力の方が強くなっている可能性が高いのです」 復活した古泉が俺の耳にそっと情報を届けてくれた。疑問に答えてくれて嬉しいよ、そのにやけた面を殴りたくなるくらいな。 「そんな、正義の味方がやられるなんて!」 ハルヒが口を手で押さえて悲痛な叫びが隣から漏れる。俺だって叫びたいよ。しかし、そんなことをしている暇は無い。考えないと。九回裏ツーアウト十点差で逆転できる起死回生の策を考えないと。諦めたらそこで試合は終了だって偉い人も言ってたからな! 「カーネルクリスピー!」 「マックナゲット!ふっふぅっ!」 苦しそうにもがくカーネルマンが骨無しチキンで弾幕を張るが、質はともかく物量で勝るドナルドの弾幕に押されっぱなしだ。勝てると踏んだのか、ドナルドは飛び上がって空中で一回転、ライダーキックさながらの版権的に怪しいキックをカーネルマンに叩き込んだ。 くそっくそっくそっ!どうすりゃいいんだ!?もう一度、ハルヒをおだてて放射能をばら撒く怪獣でも出すか?狂気の道化師ドナルドの力が暴走特急ハルヒ号のそれを上回っている限り何を出しても無理そうだ。証明終わり、畜生!・・・・・・ん?何だ、古泉?良い案があるなら・・・!? 古泉のいつになく真剣なアイコンタクトは俺の心に直接呼びかけているようだった。そのおぞましい提案が手に取るように伝わってきたぜ。超能力者の力ここに極まるって感じだ。 「古泉よ。どうしてもそれをやらなきゃいかんのか?」 「僕も本心を言えばやりたくはありません。正々堂々とアタックしたいですから。それでも、生かドナルドかを選ばなくてはなりません。迷ってる暇はありませんよ」 「俺だって生き残るためにはそれなりの恥を晒してもいいと思ってる。だがな、世の中にはどうしても譲れないことが・・・」 ふと、ここに至る過程で身を犠牲にして進めと言ってくれた長門の、あの儚げでいて最後まで心強かった顔が浮かんだ。それだけじゃない、何をしに来たかよく分からなかった朝比奈さん。俺たちを全力で守ってくれた森さんに新川さん、ヘリのパイロット、その他機関の構成員。市民を守るために出動して散っていった名も無き自衛隊員、米軍の兵士たち。わけも分からないままドナルドに襲われて洗脳された人。これから襲われるかもしれない俺の家族、友人、世界中の人々。俺がここで提案を蹴ったら彼らはどうなるのだろうか。答えは明白だ。これはやつを止めるラストチャンスらしいからな。 攻撃を受けてふらふらになっても、呪文が一文字多いだけで圧倒的に不利な状況に陥っても、老骨に鞭打って戦い続けるカーネルマンの姿をバックに、俺の心は速乾性の接着剤のように固まっていった。 「心の中でけりをつけたようですね」 ああ、まったく忌々しいことだよ。世界のために我が身をささげる、なんて安っぽい道徳家の思想に屈するなんてな。 「あなたって人は、どこまでもツンデレですね。そのうち流行が終わってしまいますよ?」 「黙ってろ。嫌なことをとっとと済まして家に帰るぞ!」 馬鹿な掛け合いをやって時間を無駄にしている場合じゃないな。結末をじらすのはテレビ番組だけでいい。俺は口の減らない変態の腕をつかんで戦場、すぐそこでカーネルマンに喉も枯れんばかりに声援を送っている一人の少女の前に向かった。 「な、なあ、ハルヒ。話があるんだが聞いてくれないか?」 「今度は何よっ!?あたしは応援で忙しいのよ!」 目を三角形にして怒鳴るハルヒと正対する。息を吸って呼吸を整える。ある意味ドナルドに襲われるよりも次の言葉を搾り出す方が怖い。ほら、決心もとい諦めはついたんだろ。早く言え!言うんだ! 「おっ、おっ、俺、古泉と・・・・・・その、付き合ってるんだ!」 お母様、お父様、最愛の妹よ。汚れてしまった俺を許してください。ですが、これは仕方がないことなんです。世界を救うためなんです。ドナルドの魔の手から美しき地球を救うためなんです!どうかそこらへんの事情をご理解ください。お願いします。古泉、てめえはやりたくないとかほざいたくせにニコニコしてるんじゃねえ。森さんに報告してシバいてもらうぞ。 ドナルドとカーネルマンは戦っていた。古泉は嬉しそうだった。俺はショックを受けていた。しかし、この場で最も衝撃を受けていたのは、なんと我らが団長様だった。顔から表情がポロポロ落ちていく音が聞こえそうだ。 「は、はは。う、うそ・・・・・・よ。うそに決まってるわ。こんな非常時にうそをつくなんて、キョンもなかなかやるわね」 「団の規則を破ってしまい申し訳ありません。されど、恋愛とは二人の前に立ちはだかる障害が高くなればなるほど燃え上がるものなのです」 「こっ、古泉くん!?」 ろれつが回らなくなっている舌を必死に動かして俺の言葉を否定しようとするが、そこにすかさず古泉がフォローを入れてハルヒの努力をくじく。あれ?何でだろう。ハルヒの悲痛な声が心にグサッと刺さる。急に罪悪感がこみ上げてくる。 「あ・・・・・・ありえない。だって、だって、キョンはあたしのこと見てくれないけど・・・・・・ぐすっ、いっつもみくるちゃんや有希のことばかり見てるから、異性に興味があるのは明白・・・・・・」 「涼宮さん、現実を受け入れてください。僕とキョンたんは相思相愛の仲なのです。何人たりとも僕たちの愛の邪魔をすることはできないのです!さあ、そのことを証明するために誓いのキッスを!」 迫り来る古泉を全力で足を踏みつけて撃退する。ドナルドに掘られてしまえ。あの巨大ドナルドの方にな。っと、それよりも、この予想外の事態は何だ?俺の予想では、ハルヒは俺の一世一代の大うそを聞いてドン引きするか大笑いして 「ああ、キョンと古泉くんが付き合うなんてありえないわ。そうか、さっきからありえないことばかり起きると思ったら、これは全部夢なのね」という流れになって世界は改変され一件落着、のはずだったのに。ハルヒは下唇をかみ締めて今にも泣きそうな顔をしている。涙腺は決壊してしまっているのか、目じりにうっすらと塩水まで浮かべているではないか。これは一体どういういことだ? 古泉にアイコンタクトで説明を求めようとしたら「はあ、さすがはフラグクラッシャー。絶滅危惧種並みの鈍感男です。まっ、そこが魅力とも言えるんですけどね。ハートマーク」と返された。このクソアホ、後で絶対に殺す。森さんやドナルドには任せず俺の手で地獄に叩き落してやる。首を洗って待ってやがれ。 「嫌よ。嫌だよ、こんなの。女ならまだしも、男である古泉くんとくっつくなんて認めないわ。認めるもんですか!」 もはや悪霊に取り付かれているかのようにうつろにしゃべり、目の焦点も合っていないハルヒがうっすらと光り始めた。どうやら作戦は成功したようだな。ランランルーを上回る衝撃を受けたハルヒの心に深い傷跡を残そうとしているが。 「そう・・・・・・これは夢。夢に違いないわ・・・・・・」 ハルヒから発せられた光は夜空へ舞い上がり、世界を包む本流となろうとしていた。はたから見れば美しい光景なんだろうが、俺にはどうもそう捉えることはできなかった。これはハルヒの悲しみによって動いてる力ではないかと感じられてならない。 「涼宮さんの力が再びドナルドを凌駕したようです。これで、終わりですね」 古泉が自分の身体にまとわり付く光を眺めながら、ホッとしたようなため息をつく。ハルヒはすでに直視できないほどの輝きを放っているが、俺は大声を上げて泣いている姿が見えた気がした。すまん、ハルヒ。なんだか分からないが、申し訳ないことをした。世界がまともに戻ったら、またわがままに振り回されてやるよ。マクドナルドに行くのだけはお断りするがな。 「アルァーッ!?」 「It’s finger lickn’ good!」 ドナルドとカーネルマンのそれぞれ意外そうな叫びと、何かを守り通した安堵の叫びを遠くで聞きながら、俺は意識を手放し無重力の世界に身を投げた。 「戻った・・・・・・か」 視界に広がるのは掃除の行き届いてない部屋。天井の隅っこに蜘蛛の巣がはってる。更地になった学校ではない。ドナルドもいない。変態もいない。そして、俺は生きている。」 ここで深呼吸を一回。うん、生きているってすばらしいが、空気よどんでいる。窓を開けないとな。 眠い目をこすりつつ、窓際まで行って部屋と外界を隔てているガラスを横にスライドさせる。涼しい風が部屋の中に入って来る。実に気持ちいい。 「マイルームよ、私は帰ってきた!」 身体の奥底からの衝動に駆られ、つい叫んでしまう。近所迷惑?知ったことか。今夜は近所迷惑どころか世界中をお騒がせした事件を解決したんだ。これくらいの開放感は味わっても許されるだろう。法律が許さなくても俺が許す。 思う存分生きる喜びを開放した後、ベッドのところに戻って落ちていた携帯を拾う。古泉、長門、朝比奈さん、見知らぬ名の外人からメールが一件づつ。最後のは迷惑メールか。 メールの中身は三者三様だったが、結論は皆同じ。要約すると、ハルヒの願望を実現する能力によって今晩のドナルド騒動は無かったことにされた。まさに典型的な夢オチ。自然に身体が踊りだしちゃうくらいハッピーエンドだ。迷惑メールに返信してもいいくらいだ。 「まったく、やれやれだぜ」 ため息をついて窓の外を眺める。まだ日は昇っていない。そういや世界を元に戻した暁には、SOS団全員で朝日を見るんだっけ。時計は三時を少し回った頃だと示している。今から電話をかけまくってどこか見晴らしのいい場所に集まれば、ぎりぎり日の出には間に合うな。どうせ三人は起きてるようだし。よし、思い立つが吉日だ。 一番最初に電話をするのは・・・・・・もちろん我らが団長様に決まってるよな。アドレス帳のサ行からあいつの電話番号を探し出して発信ボタンを押す。ハルヒに電話するのがこんなにウキウキするのは初めてのことなんじゃないか?俺もたった一晩でずいぶん変わっちまったな。それに見合う経験はしたが。時間が惜しい。早くつながれ! 一、二、三、四コール目で相手が出た。 「もしもし、ドナルドです」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/515.html
涼宮ハルヒの赤面 ハルヒの憂鬱に付き合ったせいで、俺の方が憂鬱になった、 世界を再構築どったらこったらの事件から大分月日が経ってる訳だが、こんな事は初めてだ。 「涼宮は風邪で今日は休みだ」 担任の岡部の無駄な話を聞き流していた俺の便利な耳はその部分をクローズアップした様に聞き取りやがった。 ハルヒが休むのは特に珍しい訳では無いが風邪と言う事に引っ掛かる。 ウイルスですらハルヒを避けて通りそうなモノだからな。 ケ ハルヒが居ない一日と言うのは何とも平和で退屈だった。 改めてハルヒは俺の平凡な生活に深く踏み込んでいたのかが分かる。 ……って俺は何考えてんだ。 今日は自己中な団長様も居ないようだから、部室に顔を出す必要も無いだろう。 そう思い、俺は珍しく朝比奈さんの声を聞きたいとも思わず、下駄箱に向かった。 俺を待ち受けていたのは他の人にはわくわくする出来事なのかも知れないが、俺にとっては結構な懸案事項だ。 それは何かって言うと、手紙なのだが、差出人不明の手紙に俺は良い思い出がない。 まぁそんな事を言っても、この手紙は直ぐに懸案事項から外れた。 何故か、なんてのはこの字を見てもらえば分かるだろう。 俺はこんな機械のような字を書く奴は一人しか知らない。 長門だ。 コ 俺は走った。今日は不幸にも、さすがにあの坂に嫌気が差したのか、 自転車様のチェーンが切れたので、自転車は無い。 手紙の内容は 『いつもの公園で待ってる』 時間が書いていないから、急がなくて良いのではないか?と思う奴も居ることと思うが、長門を知ってる奴から言わせてもらうと、時間が書いていないと言うことは、あいつは俺がいつ来ても良いようにずっとあの公園に居る、と言う事だ。 いくら長門がなんたらヒューマノイド・インターフェースだって一人公園で待つのが楽しい訳が無い。 公園に着いてまず見る所は決まっていて、やはり、そこにベンチと一体化し、本を読んでいる長門を見つけた。 どっちかと言ったら宇宙人より忍者の方がしっくりする。 そんな事を考えながら、俺は長門の隣に腰を下ろした。 やはり、長門は制服姿だ。 「よう」 長門は視線をこちらへ向け、本にまた戻す。 「大分待ったか?」 ……少し間を置いてうなずく。 「もしかして学校をサボったとか」 うなずく。 「……すまんかったな。早く気づかなくて。」 朝から待っていたと言う事は大体6時間以上待っていた事になる。 「いい」 長門は読んでいた本を閉じ、視線をこちらへ向けて言った。 「……んで? 何の用だ?」 「これ」 すると長門はどこからか、何かの紙とリンゴを取り出して、俺に渡す。 「? 何だ?」 「りんご【林檎】バラ科の落葉高木。ヨーロッパで古くから果樹として栽培され……」 「んなこたぁ知ってるが……」 「なら良い。」 おいおい、俺がここに来た理由がリンゴってどういう事だ? 「おい、長門……」 俺がリンゴから視線を戻すと……長門は既に居なかった。 虚しいから俺を一人残さないでくれよ。 取り敢えず俺はリンゴと一緒に手渡された紙を広げた。 内容はこれまたワープロの様な綺麗な字でどこかの住所が記されている。 そして紙の最後には一言。 【涼宮ハルヒ宅】 ……やってくれるな。 しっかし……はぁ……まぁ良い。 ハルヒのやることなすことにツッコミを入れてうんざりする気分になるのは俺だけの役割だ。 そういう事になっていると、いつだかは忘れたが、自覚したのだ。 俺は長門からもらった意外に冷えているリンゴを持ち直し、紙に書いてある住所を目指して歩き始めた。 あいつがリンゴ好きである事を祈りながら。 サ ハルヒはどうやらリンゴがお好きな様だ。 着いた先は鶴屋さんの家には及ばないかも知れないが、相当な大きさの家だった。 まさにハルヒらしいね。 そんな事を考えながら俺は玄関に付いているインターホンを押した。 『……はい、どちらさま』 明らかに不機嫌そうな声が聞こえてくる。 少し鼻声のようだから、この声の主はハルヒか。 「いくら風邪の時でも、もう少し客に対しての態度を考えたらどうだ?」 まぁ、考えろと行った所で聞かないのは分かってるがな。 実際、俺も人に言えた立場じゃない。 『う、うっさいわね!! ってその声、あんたキョン!?』 「あぁ」 『え、あ、う、うそ!?ちょ、ちょっと待ってなさいよ!?』 ドタバタと漫画の様な音を残してインターホンは切れた。 ……ガチャ、と音をたて玄関の扉が開く。 「な、何しに来たのよ?」 「見舞いにだが、まぁ、結構元気っぽいな」 安心した……って、何で心配してんだ、俺? 「そ、そうね、私、風邪は直ぐ治るから。アンタの顔を見たら治らないかもだけどね」 ……どうやら具合いはほぼ完璧らしいな。 「そうかい。んじゃ、完治する邪魔しちゃ悪ぃな。これ渡して帰るわ」 俺は長門に渡されたリンゴをハルヒに渡す。 まぁ、長門からのリンゴの使い方は俺の想像力じゃ、これくらいしか思いつかない。 「じゃあな。夏風邪は油断しない方が良いぞ」 俺は踵を返して帰ろうとした。 「待って」 その言葉は俺のシャツの裾を掴んでいるかの様に俺を引き止める。 「……何だよ?」 俺がそう言葉を発すると、裾を引く力が強まった……気がする。 「……団長命令よ」 ……素直じゃないな。 まぁ俺が言えた事でも無いか。 「……俺は腹が減ってる。」 そう言って、俺はさらに強まった、裾を引く力の源……ハルヒの手の手首を握った。 すると、ビクッ、と手が震え、急に裾が解放された。 俺はハルヒの手を離し、振り返った。「そうだな、リンゴでも食べさせてもらうか」 俺が振り返った瞬間のハルヒは若干涙目だったが、直ぐ様いつもの顔に戻り、こう言った。 「ば、バカじゃないの!? 部下が団長に食べさせて貰おう何て甘い考えは捨てなさい!!」 あー、はいはい。分かりましたよ。 やれやれだ、と一度は封印しようとした口癖を、俺が心の中で呟いていると、ハルヒは熱が出てきたのかほんのり顔を赤くさせ、言った。 「あんたが私に食べさせるの」 シ ……と言うわけで、ベッドの上で横になっているわがままな団長様の横で俺はリンゴを切っている訳だが。 緊張する。 なんだかんだ言ってもハルヒは女の子で俺は年頃の男の子なのだ。 しかもハルヒは全校生徒でもトップクラスの美女だ。俺も認める。 普段アジト……文学部室で二人きりになる事が有っても、ハルヒの家で、しかも両親は今出掛けていて……何てなった日には緊張しない奴は居ないだろう。 いや、居るのだろうが、そいつは余程女に慣れているか、女に興味がないか。 生憎、俺はどちらにも当てはまらない。 もしかしたら、古泉あたりなら緊張はしないのかも知れない。 「ほれ」 俺は切り分け、皮を剥いたリンゴを、横になっているハルヒに手渡……そうとした。 結果、リンゴはハルヒの手に渡っていない。 何故か? ハルヒが口を開けていたからだ。黙って、顔を赤くして。 ……あーん…………か………? 一度にここまで三点リーダを使ったのは初めてかもしれない。 俺が固まっている間もハルヒはさらに顔を赤くして口を開けているので、俺は意を決して、ハルヒの口許にリンゴを近付けた。 さっき散々『ハルヒは顔を赤くして……』と言っていたが、スマン。 俺が言える立場じゃないな。 「……あ~ん」 ハルヒに聞こえない様に、普段は出した事が無いほどの小さい声で言ってみた。 一瞬、このリンゴの様に真っ赤なハルヒが震えた様に見えたが、気のせいだと信じたい。 そしてハルヒは、シャクッ、と気持ちの良い音を鳴らし、リンゴを半分口に入れる。 そして少ししてまた開けたハルヒの口に残りの半分を放り込んだ。 もう一切れハルヒの口にもって行こうかと思ったが暫くしてもハルヒは口を開けないので、俺は自分で剥いたリンゴを口に入れる。 うむ、うまい。 俺が自分で剥いたリンゴを暫く味わっていると、突然ハルヒが話出した。 「……前に」 「何?」 いきなり喋り出すので思わず聞き返してしまった。 するとハルヒは『黙って聞いてなさい、バカキョン』と、言っている様な視線(……もしかしたら本当に言っていたのかも知れない)を俺に向け、続けた。 「……結構前に、悪夢を見たって言ったの、覚えてる?」 「あぁ」 あの事件は忘れられる方がおかしい。 ハルヒ、あまり引っ張り出すな。 「その夢ね……内容は……」 やめろ、ハルヒ。言わなくて良い。 「内容は……良いわ」 どうやら俺の意思が伝わった様だ。 「その夢ね、本当は悪夢じゃなかったの」 ……は?悪夢じゃないって?どういう事だ? あれはお前にとって悪夢じゃないのか? ……もしかして、違う夢の事を話しているのか? 「その夢にはあんたも出てきてて……今みたいに二人きりだった」 いや、間違い無い。 あの閉鎖空間と現実世界が入れ替わりそうになった時の事だ。 「その夢の最後……あんた、何したと思う?」 それは…… 俺が戸惑ってあたふたしていると、急にハルヒの顔が近付いて来た。 おい、ハルヒ。顔がちか…… 「……こうしたのよ」 ハルヒの顔が俺の目の前に有った。 俺の唇には柔らかい……ハルヒの唇が重なっていた。 実際には数秒、長くて10秒そこらの出来事のはずだが、俺には何時間にも、何日にも、何ヵ月にも、何年にも感じられた。 だが、もし実際にその年月が経っていたとしても俺は一つの事をずっと思っていただろう、『離したくない』と。 唇を離したハルヒは次に抱きついて来た。強く。 「好き」 とただ一言を言って。 俺はその時、驚いてはいたが、意外に冷静だった。 おそらく、俺は無意識の内に自分の思いに気付いていたのだろう。 おそらく、俺は無意識の内にこういう事を考えていたのだろう。 おそらく、俺は無意識の内に自分の思いを整理し、もしも、こういう事が起きた時のために答えを用意していたのだ。 だから、俺は用意していた答えを口に出して言うだけだった。 ……言うだけ、じゃないな、行動も伴わせた。 「俺も……好きだ」 そしてハルヒを抱き返す。 ……このときばかりは 『世界一幸せな時は?』 こんな質問をされて、 『好きな食べ物を久し振りに食べた時』 とか答えている奴の気が知れないと思ったね。 ソ ――翌日、ハルヒは風邪が完治したようで、いつもの極上の笑顔を浮かべていた。 俺は若干の風邪気味。 理由は言わずもがな。察してくれ。 まぁ、今日は金曜で明日は土曜で休み。 大した問題では無い。 明日はゆっくり寝て……ん? 「キョン!!」 突然暗くなったと思ったら目の前にハルヒが立っていた 「明日の探索は……わ、私達二人でやるわよ!! あ、あんまり多すぎるとあっちも警戒すると思うから!!」 ハルヒの顔は若干赤い。 まぁ、俺も赤いのだろうが。 何故赤くなってるのか? まぁ、要するにだ……明日は二人きりって事で、で、デートとも言えるって事だろう。 「後、今日のSOS団の活動は休み!! み、みくるちゃんや、古泉くん、有希にも伝えておいてね!」 そう言ってハルヒは俺の後ろの席に座り、小声で、話しかけてきた。 「……ボソボソ」 ――放課後、俺は軽快な足取りで部室へ向かっていた。 今日は休みだと言う事と、明日の探索は休み(・・)と言う事を皆に伝えるために。 部室の扉をノックする前に一つ、懸案事項が有った。 宇宙人、未来人、超能力者は心を読めないのか? ……まぁ、どっちでも良いさ。 俺はさっさと伝えて、裏門で待ってるハルヒの所へ行かなければならないのだから。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5428.html
ハルヒに巻き込まれて数ヶ月、日々起こる非日常の連続に俺の精神は多少の事では動じない強靭さを手に入れていた。 つもりだったんだがな……。 休日、いつものようにハルヒに呼び出されていた俺が駅前に辿り着くと、そこにはいつもの4人と……誰だ? あの黒人 ハルヒ「この可愛いのがみくるちゃん、こっちの静かな子が有希。彼は古泉君で……あそこに居る、まぬけな顔をしてるのがキョンよ」 黒人「ハジメマシテ、キョンサン。ニャホニャホタマクローデス」 やたらフレンドリーに俺の手を握りしめるのは、ニャホニャホタマクローさん……らしい。 えっと……どうも。 おい、この人誰が連れてきたんだ? っていうかこんなことをするのは ハルヒ「あたしよ!」 やっぱりか。 ハルヒ「あんたは遅いし、そこでふらふらしてたから捕まえてきたの」 文書の前後で意味が繋がってないんだがな。 で、この人がどうかしたんだ。道案内とかか? ハルヒ「ちょっと違うわ。彼は日本の文化を知りたいんだって」 日本の文化? タマクロー「ソウナンデス。ニホンコライノセイギノミカタ、ミトコウモンヲサガシニキマシタ」 ハルヒ「じゃ、行くわよ。みんなついてきて~」 3人「は~い」 ……お、おい?! なんでみんないつも通りなんだよ? 数時間後――俺達は映画村に来てしまっていたわけだが…… タマクロー「スバラシイ、コレガシタマチブンカデスカ」 ハルヒ「そうよ~。古き良き時代って奴よね」 みくる「ふぇ~……タイムスリップしたみたいです」 それ、随分前からですよね。 で、ハルヒ。俺達をここに無理やり連れてきた理由ってのはなんだ。 ハルヒ「そんなの決まってるでしょ? 今からあたしたちでタマクローに水戸黄門を見せてあげるのよ。あんたは意味もなく殺される町民Aね。 古泉君は同心で、みくるちゃんは越後屋の一人娘で有希はその妹って設定でいきましょう」 1人娘なのにその妹ってなんだ。 ハルヒ「じゃあ、有希は後妻の連れ子って事で」 古泉「心得ました」 みくる「が、がんばります……」 長門「把握」 ……まあ、朝比奈さんと長門の着物姿が見れそうだからいいか。 タマクロー「タノシミデス」 ハルヒ「何言ってるの? あんたもやるのよ」 タマクロー「ワタシモ?」 ハルヒ「あんたは……そうね。凄腕の素浪人、珠九郎ね!」 お題は水戸黄門じゃなかったのか? ――なんて俺の突込みが聞き入れられるはずもないわけで、それぞれに着替えを終えた俺達は……高校生にもなって何やってるんだ? 俺。 珠九郎「おや、お似合いですよ、キョンさん」 そりゃどうも……あ、あれ? 珠九郎さん今、普通に話してませんでした? ハルヒ「みんな着替えたわね!」 ん、お前も着替えてるって事は今回は監督じゃないのか。その格好で何の役をやるつもりなんだ? ハルヒ「決まってるじゃない、水戸黄門よ! さ、朝比奈みくるの冒険 EP江戸を撮るわよ!」 ……かくして、日本史上類を見ない『新解釈水戸黄門』のはじまりはじまり~……。帰っていいかなぁ~。 ところでハルヒ、お前水戸黄門ってどんな話しなのか知ってるんだろうな。 ハルヒ「もちろんよ! 印籠片手に敵を行動不能にする本格派老人アクションでしょ?」 前半はどう考えて間違ってるが、後半は意外にあってるな。 それはいいとして……全員が町人とかじゃ悪人役が居ないじゃないのか?。 ハルヒ「甘いわね、本当の悪は身近に潜んでいるものなのよ~」 なるほどな。納得だ。 珠九郎「……」 ハルヒ「あんたもやっとわかってきたじゃない! じゃあ最初のシーンは……みくるちゃんと有希が悪事を企んでて、それをあんたが見つけるの」 一応最後まで聞いてやろうか。 ハルヒ「とりあえずそこまでよ。ほら、有希とみくるちゃんはそこの店から適当な箱を持って出てきて。出番が無い人はカメラとレフバン!」 みくる「は~い」 お団子頭の朝比奈さんも可愛いなぁ……。 ハルヒ「で、二人が裏道を歩いてる時に路地から出てきたあんたがぶつかるの」 へいへい。 シーン1 町で評判の美人姉妹、有希とみくるが怪しげな箱を何やら大事そうに持って歩いている。 ――そんな二人が裏路地を歩いていると おっとぉ。 みくる「きゃっ!」 ガッシャン。 急に飛び出してきた町人A――つまり俺――とぶつかり、二人は箱を落としてしまう。 ……で、次は何だ? え~なになに古泉からのカンペによると…… おっとすまねぇお嬢さんがた、怪我はないかい?(何だよこの口調は) みくる「だ、だいじょうぶです! なんともないんです!」 有希「平気」 あ、大事そうな箱が壊れちまったじゃないか。すまねぇ、こいつは大変な事を……ん、これは。 みくる「ああ! そんな」 有希「見られた以上、生かしてはおけない」 まってくれ、俺は何も見なかった! だから命だけは! 有希「問答無用」 白昼堂々、ちっこい娘さん相手になんの抵抗もせずに、胸にかんざしを深々と刺された俺は早々に出番を終えた。南無。 シーン2 ――川原のそばで寝ている俺の隣で、古泉が何やら難しそうな何も考えていなさそうな顔をしている。 古泉「鋭い刃物で一突き、これはかなり腕の立つ人間の犯行でしょうね」 おい古泉、なんで俺の着物をそこまではだけさせるんだ。傷口の所だけでいいだろ。 ハルヒ「こら! 死体が喋るな!」 へいへい。 古泉「これだけの事ができる人間は、そう多くはありません。例えば……そう、最近よく聞く流れの浪人……とか」 なるほど、ここで珠九郎の出番なのか。 ――場所は変わって下町の長屋。 珠九郎「で、私に御用とは」 やっぱり普通に喋ってる。 古泉「先日、殺しがありまして。その下手人を探しているんです」 珠九郎「なるほど、それで私が疑われていると」 古泉「端的に言えばそうなります。かなりの達人でなければ、人を一瞬で殺す事何てできませんからね」 珠九郎「買いかぶりでは? 私にそんな腕があれば、こんな浪人家業なんてやっていないでしょう」 なんであんた浪人にそこまで詳しいんだよ。 古泉「――もっふ!」 突然刀を抜いた(そもそも同心は簡単に刀を抜かないはずだが)古泉の一撃を、あっさりと珠九郎は避けてみせる。 珠九郎「……何の真似ですか」 古泉「失礼ですが試させて頂きました。やはり……貴方は強すぎます。ですが、それだけではお縄にする訳にもいきません」 珠九郎「……」 古泉「暫くの間、貴方を監視させて頂きます。それでは……また」 ――立ち去っていく古泉を、珠九郎はじっと見つめている。 おお、シリアスな展開だな。 シーン3 越後屋の店先でのんびりと団子を食べている珠九郎。 みくる「お茶が入りました~」 珠九郎「アリガトウ、ミクルサン」 何で今更カタコトなんだよ。 みくる「それで、さっきのお話ですけど……」 珠九郎「ドウシンサンノコトデスカ? ダイジョウブ、ボクハムジツデスカラ。キットシンハンニンガミツカリマスヨ」 よりによって長文がカタコトってのはどうなんだ。 ――店を出る珠九郎、みくるはそれを見届けると店の中へと入っていく。 みくる「……ふぅ」 店の奥に戻ったみくるの表情は晴れない。 そこにやってくる有希。 有希「姉さん。今のお客」 みくる「……珠九郎さんの事?」 有希「彼にも死んでもらう」 みくる「えええ! そんな、どうして?」 有希「役人は彼を疑っている。このまま彼に失踪してもらえば、私達は安心」 みくる「そんな?! そんなの駄目です!」 有希「そうしなければ、この店を守れない」 みくる「だからって、何の関係もない珠九郎さんにそんな酷い事を」 有希「もう、後戻りはできない」 ……なんだか話の雲行きが怪しくなってきたな。 シーン4 ――下町の長屋、あばら家同然の珠九郎の家。周囲を見回してから、長門は家の中へと入っていく。 珠九郎「おや、貴方は……確か越後屋の」 有希「……」 無言のままかんざしを構えて飛び掛ってきた長門を、珠九郎はなんとかかわす。 珠九郎「何をするんですか!」 有希「貴方には死んでもらう」 珠九郎「何故です?」 有希「問答無用」 狭い部屋の中で長門から逃げ惑う珠九郎、しかし追い詰められてついに転んでしまう。 有希「覚悟召されよ」 その時、窓から飛んできた風車……――が、カメラを持っていた俺の足元に刺さった。 ばか! 危ねぇだろ? 本当に投げるな! ここは後でエフェクトで誤魔化すって言ってただろうが! ハルヒ「だってそこでちょうどいい風車が売ってたんだもん。ま、そんな事はどうでもいいのよ。 ……まちなさぁい!」 無駄で長い口上と共にその場に現れたのは、それっぽい杖を手にしたどうみても町娘にしか見えない着物姿のハルヒだった……。 なあ、やっぱり黄門様が町娘って違わないか? ハルヒ「水戸黄門って何人も居たんでしょ? 1人くらい女の子も居たわよ。きっと」 いるわけないだろ。 有希「貴女は」 ハルヒ「あたしは越後のちりめん問屋のご隠居よ! 越後屋の娘、有希。観念してお縄につきなさい!」 ちりめん問屋のご隠居にそんな権限があるのか? 古泉「ここからは僕からお話しましょう」 もったいぶってハルヒの後ろから現れたのは、説明したくて仕方ないといった顔をした元超能力者、現同心の古泉だった。 古泉「この事件にはあまりにも手がかりが少なかった。ですから僕は、犯人がこのまま隠れていられないように準備をしました」 有希「準備」 古泉「そうです。犯人はかなり腕の立つ存在、それがそもそも嘘なんです。そう触れ回れば、真犯人は疑いを掛けられた人に興味を持つ。その人を失踪でもさせれば 濡れ衣を着せられるかもしれない、とね。その結果、目ぼしい人物が見つかればいいと思っていましたが……まさかいきなり殺そうとするとは」 珠九郎「では、僕を試したのも」 古泉「すみません。貴方を囮にしてしまいました」 有希「でも、何故私の動きが。この周辺に役人は居なかった事は確認済み」 ハルヒ「そこであたしの出番な訳よ! 古泉君……じゃなくて同心さんに頼まれて、珠九郎さんの様子をあたしが見守ってたわけ!」 古泉「ご隠居様でしたらどこに居ても目立ちませんからね」 いや、目立つだろ。 有希「……迂闊」 ハルヒ「さあ! 年貢の納め時よ!」 有希「ここで捕まるわけにはいかない」 ――部屋の奥にある勝手口から外へ逃げていく長門 古泉「逃がしません!」 ハルヒ「まちなさ~い!」 シーン5 ――大通りに出た3人が睨みあっている。その様子をたまたまその辺に居た観光客は携帯やカメラ片手に見守っていた。 有希「こうなったら仕方ない。ここで貴方達を始末して、自分の安全を確保させてもらう」 古泉「手荒な真似はしたくありませんが……止むを得ません」 十手を構える古泉と、かんざしを持つ長門がじりじりと距離を詰める。 ハルヒ、お前は何もしなくていいのかよ? ハルヒ「あんたね~。正義の味方が1:1の勝負に手出しするわけないじゃない」 水戸黄門は普通に袋にすると思うが。 睨み合う2人――長門は無表情だが――先に仕掛けたのは古泉の方だった。 せめて怪我をさせないようにとの配慮なのか、十手を片手に組み付こうとする古泉の腕をすり抜け 古泉「しまった!」 すれ違いざまに、長門は古泉の腰にあった刀を奪い取っていた。 有希「公務中の事故により殉職」 不吉な事を口走りつつ、刀を手にした長門が一歩踏み出したかと思うと――次の瞬間、古泉の体は通りの先まで吹き飛ばされていた。 観客「おおおおーーー!!!」 い、今何をしたんだ? ……っていうか古泉、生きてるか? 普通に切られた様に見えたぞ? 古泉「ご安心を。ちゃんと寸止めしてもらえましたから」 何で寸止めで吹っ飛ぶんだよ。 古泉「僕の脇腹に刀が触れた瞬間、長門さんは一回刀を止めてくれたようです。ですが、その後に振り飛ばされた様ですね」 まあ、今更長門が何をやっても驚かないが……。っていうか、このシーンは長門が捕まって終わりだったんじゃ? ハルヒ「いいアドリブね。でも、最後に勝つのは正義の味方なのよ!」 杖を両手で構えてご機嫌なハルヒと、 有希「その意見には同意。勝った方が正義となる」 それを迎え撃つ刀を構えた長門。 ……おいハルヒ、ところでどうやって杖で刀と戦うつもり ハルヒ「先手必勝ー!」 聞けよー! 飛び掛ったハルヒの杖はあっさりと避けられ、次の瞬間 ハルヒ「あああ!!」 長門の刀を受けた杖は、あっさりと分断されてしまった。 ハルヒ「なんで? これって中に刀が入ってるんじゃないの?」 それは違う時代劇だ。 ハルヒ「こうなったら奥の手よ! 必殺の印籠を……あ、あれ? 印籠は?」 印籠は普段角さんが持ってるはずだぞ。 ハルヒ「角さんはどこ?」 っていうかお前、助さんも角さんも八兵衛もお銀も弥七も飛び猿もキャスティングしなかっただろうが! ハルヒ「……飛び猿って誰よ」 そろそろ新キャラに馴染めよ! 有希「覚悟」 みくる「待って!」 絶体絶命のピンチにやってきたのは、有希の姉であるみくるだった。 みくる「もういいの! お店なんてどうなっても。だからお願い、これ以上罪を重ねないで!」 有希「……それでは困る」 みくる「え?」 有希「私の目的は越後屋を手に入れること。その為に、私はここに居る」 長門、随分ノリノリだな。 みくる「な、何を……言ってるの?」 有希「ご禁制の品に手を出したのはお店の為ではない。貴女に罪を被せて、店を手に入れる為」 みくる「そんな? そんな事をしなくても私達は姉妹なんだから」 おお、朝比奈さんも役に入りきってらっしゃる。 有希「違う、私は後妻の娘。お父様の跡を継ぐのは貴女。どれだけ店の為に尽くしても、それは変わらない」 有希は刀をハルヒからみくるへと向ける。 有希「貴女に罪を被せるよりも、こうすれば早かった」 みくる「そんな……」 有希「さよなら、姉さん」 振り上げられる刀。 ハルヒ「だ、だめ! 誰か!」 雰囲気に呑まれて悲鳴をあげるハルヒ。 古泉「く……どうすれば?」 役に立たない古泉。 振り下ろされた刀は――ガキッ!! 有希「!」 珠九郎「サセマセン」 颯爽と現れた素浪人、珠九郎の刀によって防がれたのだった。 みくる「珠九郎さん!」 有希「邪魔立てするつもり」 珠九郎「ユキサン、アナタハマチガッテイル」 有希「間違ってなどいない、越後屋は私にこそ相応しい」 珠九郎「チガイマス。エチゴヤノホントウノカチハ、ミクルサンノエガオトマゴコロアフレルセッキャクデス」 聞き取りにくい事この上ないな。 珠九郎「ソノコトニキヅケナイアナタニハ、エチゴヤヲツグシカクハナイ!」 有希「なんと」 狼狽する長門の手首に、珠九郎の一撃が飛ぶ。 有希「くっ」 刀を落とした有希は、その場に崩れ落ちるのだった。 エピローグ ハルヒ「本当にいいの?」 みくる「はい。妹が戻るまで、ここで頑張ろうと思います」 古泉「ですが、彼女は貴女の事を……」 みくる「それでも、あの子は私の妹なんです。それに、珠九郎さんも居ますから」 珠九郎「ユキサンガモドルマデ、ミクルサンハボクガマモリマス」 ハルヒ「そっか……。じゃあまたね! 近くを立寄ったらお団子食べにくるから!」 みくる「はい! 待ってます!」 看板娘の健気な笑顔とそれをそっと見守る珠九郎を見て、越後屋の未来は明るいと感じたご老公の足取りは軽かった。 めでたしめでたし ハルヒ「か~っかっかっか~~!」 ハルヒ、お前それが言いたかっただけだろ。 後日談―― ハルヒ「それにしても有希、ずいぶんノリノリだったじゃない」 長門「時代劇は毎日ラジオで聞いている」 みくる「迫真の演技でした~」 確かにいい絵が撮れたな。 ついでに、これで今年は映画の撮影で悩まされずに済みそうだ。 みくる「それにしてもあのタマクローさん、嬉しそうに帰って行きましたね」 ハルヒ「国に帰ったらみんなに話して聞かせるって言ってたから、SOS団の名前もいよいよ全世界に知れ渡ったって事よね!」 それは勘弁して欲しいんだけどな。 古泉「それにしても変わったお名前でしたよね、ニャホニャホタマクローさん」 みくる「あの、パソコンで見つけたんですけど、タマクローさんって有名な人みたいで歌まであるみたいですよ」 ハルヒ「そうなの? どんな曲?」 みくる「え、えっと。……ガーナのサッカー協会会長♪ ニャホニャホタマクロ~♪」 長門「ニャホニャホタマクロ~♪」 ハルヒ「ニャホニャホタマクロ~♪」 古泉「ニャホニャホタマクロ~♪」 ……ふぅ……やれやれ………………医者で政治家、結構偉い。ニャホニャホタマクロ~♪ おしまい お題「ニャホニャホタマクロー」「水戸黄門」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4740.html
第一話 「おはよう、涼宮さん。最近嫌な事件が続いてるのね」 あたしが朝教室に着くなり阪中さんが話しかけてきた。 「おはよ。なにそれ?どんな事件?」 そう返事すると少し驚いたような顔をして教えてくれた。 「知らないの?最近この辺りで女子高生が誘拐される事件が続いてるのね。犯人はまだ捕まってないし…怖いのね…」 えっ?そんな事件があったなんて全然知らなかったわ…これは気になるわね… 「涼宮さんも気をつけた方がいいのね。それじゃあまたなのね」 そう言い残し自分の席へと戻って行った。 それと入れ替わるようにキョンが教室に入ってきた。 「おう、ハルヒ。おはよう。…どうした?」 ボーッと考え事してたからだろうか、あたしの顔を覗きこむようにたずねてきた。 …って顔近いわよっ! 「キョン!大事件よ!」 さっき聞いたばかりの事件をキョンに話した。 「ああ、その事件なら俺も知ってる。昨日のニュースでもやってたしな。 嫌な話しだぜ…」 なんだ、知ってたんだ…それなら話は早い! 「いい?これは放っておけない大事件だわ!早速今日の放課後からSOS団で調査開始よ!」 あたしは椅子の上に立ち上がり、しかめっ面をしたキョンへと高らかに宣言した。 「おい、ハルヒ!バカな事言うな。警察でも探偵でもない俺達に何ができる?」 むっ…なに呆れた顔してんのよっ! 「もし事件に巻き込まれたらどうするんだ…危険な目にあうかもしれないし…俺は…嫌だぞ、ハルヒがいなくなったりするのは…」 とつぶやくのが聞こえた。 「え…それってどういう―」 「と、とにかく事件のことは警察にまかせておけよ。わかったな?」 「わ、わかったわよ…」 急に話を終わらせたキョンにしぶしぶと答えるとちょうど岡部が入ってきた。 「みんな、おはよう。ホームルーム始めるぞ。それとハンドボールはいいぞ!」 岡部の戯言が耳に入らないくらいあたしはドキドキしていた。 さっきの言葉、どういう意味だったのかな…もしかしたらキョンもあたしのこと…好き、なのかな? いつか…この大好きって気持ちをキョンに伝えたい。今週の不思議探索の時に…頑張ってみようかな… その日あたしは授業中もずっと一人でにやけていた。かなり危ない人みたいね…今日はすごくいい日だわ!記念日にしてもいいくらいに。 そんなことを考えているとあっという間に放課後になった。 「キョン!掃除なんてさっさと終わらせて部室に来なさいよ!遅れたら死刑なんだから!」 「はいはい、わかってますよ。団長様」 いつもみたいな会話をして、一人で部室に向かった。 そして勢いよく部室のドアを開いた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「あ、涼宮さん。こんにちわー」 あたしが部室に入るとメイド服姿のみくるちゃんがお茶の準備をしようと立ち上がる。 「ヤッホー、みくるちゃん。あれ、有希と古泉くんは?」 「えっと、二人ともクラスの用事で遅れるそうです。さっき部室に来て涼宮さんに伝えておいてくださいって言ってましたよ」 温度計とにらめっこしながらみくるちゃんが答えてくれる。 「そうなの。…ん?」 机の上に置いてあるものに気づく。編みかけの…マフラーかしら。 「みくるちゃん、マフラー編んでるの?あっ、もしかして好きな男の子に?」 冗談めかして言ってみる。 「え?あぁっー、そ、それは…その…」 んー、顔を真っ赤にしたみくるちゃんも可愛いわね! 「実はキョンくんにプレゼントしようと思って…この前新しいお茶の葉をくれたからそのお礼に。このお茶がそうなんですよ」 瞬間的に思考が凍りついた。 嬉しそうな顔したみくるちゃんがあたしの机にお茶を置く。 ちょっと待って…キョンが?みくるちゃんに?いつのまに…? 自分の中で黒い嫉妬が生まれるのがわかる。 「えへへ、マフラー渡す時にキョンくんにわたしの気持ちを伝えようかなって、ふふ、そう思ってるんです」 その言葉を聞いて、さらに黒い嫉妬は叫びをあげる。 「そん……対……許……わよ」 「はい?どうしたんですか?涼宮さん?」 聞き取れなかったのだろう、みくるちゃんが側に来る。 「そんなの絶対に許さないわよっ!なによ!こんなお茶いらないわ!」 机の上に置かれたお茶を思いっきり床へ叩きつけた。 ガシャーーンと陶器が割れる音が狭い部室に響きわたる。 「な、なにするんですか!せっかくいれたお茶なのに…」 泣きそうな顔でみくるちゃんが睨んでくる。 「SOS団は団内恋愛禁止なのよ?それを…あんたは!」 自分の感情を抑えきれなくなりみくるちゃんに掴みかかる。 「しかも…キョンだなんて…絶対に認めないわ!キョンはあたしのものよ?あんたなんかよりあたしの方がずっとキョンにぴったりだわ!諦めなさい!これは団長命令よ!?」 「わ、わたしだってキョンくんのこと大好きなんです!諦めたくありません!それに…わたしの気持ちなんだから涼宮さんには関係ないじゃないですか!」 思ったより強い力で突き飛ばされあたしは尻餅をついた。 なによ…みくるちゃんのくせに! 目の前が怒りで真っ赤にそまる。 そして気がつくとあたしはみくるちゃんを思いっきり突き飛ばしていた。 「あっ…」 みくるちゃんが後ろに倒れると椅子に強く頭をぶつけ、ガンッと鈍い音がした。 しばらく苦しそうにうめいていたがやがて動かなくなる。 ハッと一気に現実に戻った私は目の前の光景を見つめた… 「み、みくるちゃん?…嘘でしょ…?目を…開けてよ…」 震える手でみくるちゃんをゆさぶる… でも…ぴくりとも動かない。 「そ…そんな…い、嫌…嫌あああああああああああああああああああああああ!」 叫び声が響き渡る。 どうして…どうしてこんな事に…どうすればいいの… その時、ノックの音がして、部室のドアが開いた。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「うー、寒い寒い。っ!おい!ハルヒ…なにやって…」 部室に入ってきたキョンが目を見開いてあたしをみつめる。 最悪…よりによってキョンが入ってくるなんて… 「なんで朝比奈さんが倒れてるんだ?なにがあったんだよ!なあ!ハルヒィ!」 大声で問い詰められて身体の震えがいっそう激しくなった。 どうしよう…このままじゃキョンに嫌われちゃう。嫌だ、嫌だ!そんなの嫌だ! 「脈がない…死んでる、のか…」 キョンがみくるちゃんの脈を確かめながらつぶやく。 「あ、あたしは悪くない…みくるちゃんがキョンの事好きだって言うから…つい…カッとなって…」 「…お前がやったのか?どんな理由があるにしろお前が朝比奈さんを殺したことには変わりないんだぞ!」 すごい顔をしながら睨んできた。 「だってだって…嫌だったもん!キョンがとられちゃうの嫌だったもん!」 必死になって言い訳を並べる…きっとあたしは泣きそうな顔してるんだろうな… もうおしまいね…二度と今までの日常には戻れないだろう。 しばらく沈黙の時間が続く。やがて、 「…ハルヒ、聞いてくれ。俺がにいい考えがある…だから安心しろ」 さっきとはうってかわって ものすごく優しい声でキョンが言った。 最初キョンの言っている事がよく理解できなかった。てっきり怒鳴られてすぐ警察につきだされると思ってたのに… 「それって…あたしを助けてくれるって、意味…?」 「そうだ…こんな時だけど…俺はハルヒが好きなんだ!だから…離れたくない!」 「あたしも…嫌。大好きなキョンと離れたくない…ずっと、ずっと一緒にいたい!」 我慢しきれず涙がこぼれる。 「絶対俺がなんとかするから。頑張って二人で乗り越えよう。な?」 そう言って優しく抱きしめてくれた。 「うん…うん。二人で…頑張る!」 あたたかいキョンの腕の中で、あたしは泣いた。 こんな状況だけどすごく幸せで嬉しかった。 だってそうでしょう?ずっと好きだった人と両想いだったことがわかったんだから。 でも、この時あたしは気付いていなかった。自分の犯した罪の重さを、そして、どんな結末が待っているのかを… --------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「とりあえず…もうすぐ長門と古泉が来るから急いで死体を隠さないとな」 キョンは辺りをみまわしながらいろんな所を探ってる。 「よし、掃除道具入に隠しておこう。後でもっとわかりにくい場所に移動させれば大丈夫だ」 キョンがみくるちゃんの死体、かばん、制服などを掃除道具入につめこみ、床にちらばった茶碗の破片を片付けた。 「これでよし…っと。ハルヒ、二人が来てもいつも通りふるまうんだぞ?」 「うん…わかった。」 私は団長机へ、キョンはいつもの場所へと座る。すると、 「いやあ、遅れてすみません。」 「……………」 相変わらず笑顔の古泉君と無言の有希が部室に入ってきた。 「おう。遅かったな。今日はどのゲームにする?」 「おや、あなたから誘ってくるなんて珍しい。そうですね、今日は―」 キョンの向かい側の椅子に座る古泉君。有希は窓辺に座って読書を始める。 私はネットサーフィンでもしようとパソコンの画面に集中する。けど、どうしても視線は掃除道具入へといってしまう。 「涼宮さん?さきほどから落ち着かない様子ですが、どうかされました?」 キョンとチェスを始めた古泉くんが聞いてくる。 「ああ、こいつ朝から体調が悪いみたいなんだ」 「そう、そうなのよ!でも平気だから気にしないで」 キョンのフォローで助かった。 「そうでしたか。ところで朝比奈さんの姿が見当たらないようですが、どこへ行かれたのでしょう。先程部室に顔を出した時にはいらっしゃったのですが」 いきなりみくるちゃんの話題が出て思わず息をのむ… 「あ…えっと…」 「朝比奈さんならお前らが来る前に用事を思い出したとかで先に帰っていったぞ」 またもキョンがフォローしてくれる。 でも、少しずつ身体が震えてきた… 「なるほど。…涼宮さん?本当に大丈夫なんですか?震えていますが…風邪ですか?無理なさらないほうが…」 心配そうな顔をした古泉くんが話しかけてくる。 「うん。そうね…今日はもう帰るわ。このまま解散にしましょ」 「おう。わかった」 「かしこまりました」 「……………了解」 それぞれに答えみんなが帰り支度を始めた時、 ガタッ…! 掃除道具入から音がした。 っ…!なんで…!こんな時に! みんなの視線がいっせいに掃除道具入へとむけられる。 気になったのか有希が立ち上がり掃除道具入の扉に手をかける。 どうしよう!まずい、まずいまずいまずい… もう、ダメだ…諦めて目をつぶった時、 「長門、中のホウキが倒れただけだろ。気にするな」 有希を止める声が聞こえた。 「………………そう」 有希はほんの少し怪訝そうな表情を浮かべたが、やがて扉から手を離した。 それを見てあたしは気づかれないように息を吐き、そのまま椅子にもたれかかった。 本当に危なかった…キョンが止めてくれなかったら今頃… 「それじゃあお先に失礼いたします」 「………お大事に」 二人が先に出て行くと部室には私とキョンだけが残った。 「ふー、なんとか誤魔化せたな。大丈夫か?ハルヒ」 「う、うん…大丈夫…ありがと」 キョンは掃除道具入を開けて中を覗きこんだ。 「死体を運べるくらい大きなバッグを探してこなきゃな。ちょっと待っててくれるか?」 そう言うとキョンは部室を出ていこうとした。 「キョン!なるべく…早く戻ってきてね」 「ああ。わかってるよ。すぐ戻るからおとなしく待ってろよ」 キョンを見送って一人になると今さらながら自分のしでかした事に頭を抱える。 これから一体どうなるんだろう… 誰にも見つからないでうまく隠せるのだろうか… 私は椅子に座ったまま目を閉じた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/822.html
「涼宮!付き合ってくれ!」 「いいわよ」 俺はショックを受けた。なんとあの谷口がハルヒに告白したのだ。しかも俺の目の前で… ハルヒは断ると思っていた。告白してきた奴らに全てOKを出してきたのは知ってたが、あいつはSOS団の団長として日々を過ごすうちに変わっていたからだ。 俺はショックだった。 なんか宙に浮いてるような感じ?嫌違うか。 とにかくハルヒは谷口の告白にOKを出したのだ。 「ほんとか!イヤッホーィィィ!!!」 あほが叫んでいる。 「それじゃあね。いくわよキョン!」 「お、おう…」 「なぁハルヒ。なんでOK出したんだ?」 「う~ん。谷口のあほには一度中学ん時告られたんだけど…」 やはりか。 「高校になって少しは面白くなってるかもしれないじゃない?だからよ」 「そうか…」 俺はショックを受けてはいたが、別に嫉妬しているわけではない。本当である。この時はどうせ三日もすれば終わるだろう。 などと夏休みの宿題並に楽観的に考えていたからである。 しかし、谷口とハルヒは二週間しても別れることはなかった。 「ずいぶんと長く続いてるじゃないか」 「それがねキョン!谷口って案外面白い奴なのよ!」 谷口がおもしろいのは知っている。「チャック谷口」最近の奴のあだ名だ。 このあだ名に行き着くまでにいろいろとあったのだが…言うのはかわいそうだからやめておこう。 「今までで一番続いてるんじゃないか?いつ別れるんだ?」 「何それ?早く別れてほしいみたいに」 ハルヒが少し怒っている。 「あっ、いやすまん…」 「あっ!妬いてんのねアンタ!かわいいやつねぇアンタも。べつに谷口にかわっ」 「ちげぇよ!!」 妬いてると言われてすぐに否定した。最後のほうの言葉はよく聞き取れなかった。 「そ、そう…」 心なしか残念そうに見えたのはきのせいだろう。 「今日は谷口と帰るから、SOS団は休み!あんたがどいしてもって言うんならやってあげてもいいわよ!」 「いや、休みで」 休みになるなら万々歳だ。ちょうど今日は休みたかったところだ。 「そう…じゃあ帰る…」 「おう、じゃあな」 「ハ、ハ、ハ、ハルヒちゅわ~ん」 あほめ とりあえず俺は部室に来ていた。SOS団の活動は休みという朗報を伝えるためと、朝比奈さんのお茶を飲むためだ。 「ちわー」 「あ、キョンくん。今お茶いれますね」 「こんにちは。いい天気ですね」 「…」 「今日は休みだそうだ」 「そうですか。それは都合がいいですね。僕たち三人の話を聞いてもらえますか?」 「なんだ?早く話せ」 「あのですね、キョンくん。言いにくいんですけど…あたし達全員キョンくんをそんなに重要な人物としてみなくなったの…」 「どういうことだ?」 何を言ってるんだ?よくわからん。 「つまりですね。谷口と付き合うことで涼宮さんがSOS団をやめると言っても僕らはとめません。」 「なんでだ?」 「言ったじゃないですか。あなたより谷口のほうを優先するようにしたんですよ。ねぇ長門さん」 「そう」 「なんだよ長門まで…どうしたってんだよ…」 「不確定因子があなたから谷口に変わった。それだけ。情報統合思念体は谷口とより深く関わるようにと言っている」 「つまり、あれか。俺を見捨てるのか。なんだよそれ……」 「まだチャンスはあります。あなたが涼宮さんを谷口から奪ってしまえばいいんですよ」 「そんなことできるかよ…」 「では仕方ありませんね」 「ちくしょう!もうこんな団はやめてやる!」 バタン 「やれやれ、鈍い人ですね。まったく」 「本当ですね。キョンくんって天然なのかな?」 「……失望」 なんなんだよあいつら!くそっ!胸糞悪い! 「寝るか…」 その時携帯の着信音がなる。 キレテナイッスヨ、キレテナイッスヨ むかつく着信音だ。後で変えよう。 「もしもし」 「よぉ、キョン」 「谷口か…」 「なんだよ、くれぇーな。とりあえず聞いてくれよ~国木田は聞いてくれないからさ~」 「なんだ、早く言え。俺は眠いんだ」 「それがよ~ハルヒの奴めちゃくちゃかわいいんだぜ~」 ぶっ殺してやろうかと思ったね。 「のろけなんか聞きたくない。じゃあな」 「おいおい、待てよ。本題はそこじゃない。聞きたくないか?」 「……早く言え」 「俺やっちゃったんだよ~」 「………何をだ?」 マサカナ… 「決まってるだろ~セクロスしかねぇじゃん。気持ち良かったぜ~それでさー」「てめぇ!!!!!」 「な、どうしたんだキョン?!」 「明日学校で話そう」 「は?」 「教室に朝早くこい」 「はぁ?わかった…」 プッ 谷口の野郎、ちくしょう…なんだよ俺…バカみたいじゃねぇか…… なんで涙が…くそっ!止まらん。 「ちくしょう……」 「キョンくん、ごはーん!」 「いらん!!」 「お母さ~ん!キョンくんが不良になっちゃったー!」 もう寝よう…明日にそなえて……… 指定した時間に谷口は来た。 「なんだよキョン。どうしたんだ?」 「お前に聞きたいことがある。」 これだけは聞いておきたい 「ハルヒのこと本当に好きか?」 「はぁ?なんでそんなこ」 「好きか嫌いか答えろ!」 「なんだよいったい…そりゃあ好きだけど…」 「好きだけどなんだ?」 「もう目的は達成したからなぁ。セクロスしたし。別に別れてもいいぜ!わかった!お前涼宮のこと好きなんだろ!早く言えよ~付き合えよ!俺は身を引いてやるからさ」 もうがまんできん。 「このヤロウ!」 俺は殴りかかった。その時だ 「やめて!!」 そこにはハルヒが立っていた… 「ハルヒ……」 「もうやめてよ…キョン…ごめんね谷口。もういいよ…」 「ああ…わかった…まさかこんな形になるとはな」 「何言ってるんだ?お前ら」 「やぁこんにちは」 「ごめんなさい、キョンくん」 「…」 なにがなんだかわからない 「あのね、キョン。これはドッキリなの…」 「はぁ?!!」 「僕が提案したんですがね、ドッキリなんですよ。あなたならもう少し違った感じになると思ったんですが…例えば涼宮さんに告白するとか……」 「キョンくん鈍いんだもん」 「ホントよ!全くバカね!!」 「ドッキリですが、あなたが涼宮さんに告白したらドッキリとは言わないようにしていたんです。」 「あ、あんたのせいだからね!まったく…」 「ハハハ」 なんだ。ドッキリかよ… なんだろうこの気持ち… もの凄く安心している。 ああそうか。 「俺はハルヒが好きだったんだな」 「えっ!」 「ハルヒ。俺お前が好きだ」 「なにぼけてんのよ!ドッキリだったって言ったでしょ!」 「違うんだ。わかったんだよ。俺は本当にお前のことが好きだったんだなって。」 「キョン……私も………」 「ハルヒ。付き合ってくれないか?」 「かぁ~妬けるねぇ~」 「谷口くんにはがんばってもらいました。一つだけを除いて」 「そうですよ。まさかやっ…たなんて言うなんて」 「そうよ!アホ谷口!バカ!」 「な…なんだよ…」 「じゃあ谷口くんは僕が預かりますからどうぞ続きを…」 「じゃあ私たちも…」 「…コクン」 みんなでていった。 「キョン。ごめんね」 「いいさ。後で谷口には謝らないといけないな」 「それはいいわよ」 「そうだな」 プツ 「アーハッハッ!!」 二人で大笑いした。 さっきまでの気分が嘘のように晴れやかだ。 「ところでハルヒ。さっきの返事は?」 「さっきのって?」 とぼけてやがる。 「付き合ってくれ」 「いいわよ!な、なによ!ただあんたなら面白いかなと思っただけなんだから!!」 「そうかい」 「よかったですね、長門さん」 「少し残念…」 こうして俺とハルヒは付き合うこととなった。 なぜか古泉と谷口の関係が深まったような気もするが… これからはずっと過ごしていけるだろう。 いつもとちょっと違った日常をさ………… 涼宮ハルヒの変貌 完 PS谷口くんの口癖が 「ア、ア、ア、アナル~」になりました。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4533.html
空から振る冷たい水に当たらぬよう差しかざした職員用のそれは明らかに定員オーバーで、それなのに寒さ故に微かに震えたあたしの肩がちっとも濡れていなくて、隣に居る男の無駄な優しさに腹が立った。 その男は持論を淡々と述べていた。雨音にかき消されることのないよう普段より少し大きめの、しかしどこか優しくあたしを諭すような声で。 諭される筋合いなど無い。何故なら今「男の持論」と称したものはあたしの持論でもあるからだ。いつだったか机に突っ伏しながら独り言のように呟いていたのを覚えている。 今でもあたしにはその思想が変わらずにしっかりと根付いている。受け売りの癖して偉そうにしている部分を除けばこの男の話に異論は無いのだが、あたしの視界がどんどん滲んでいくことから矛盾が生じていることに気がつく。 左上に視線をやると冴えない男の横顔。 昨日と何の違いも無いはずなのに、どうしてか今まで見たどの横顔よりも凛々しく、そして格好良く映った。 本日、私涼宮ハルヒは失恋しました。 「ハルヒ」 「何よ」 「好きだ」 「……え?」 「いや、『好きだった』んだ」 「……」 「恋愛感情なんて一瞬の気の迷いで精神病の一種だと俺は思う」 「……」 「付き合いなんてその場の口約束だし、結婚なんて薄っぺらい紙約束だ」 「……」 「そんなくだらん約束でお前を縛りたいとも繋ぎ止めたいとも思わない」 「……」 「だからお前を恋人と呼びたくない」 「……」 「だがもう一度言うぞ。好きだ、ハルヒ」 本日、私涼宮ハルヒは失恋しました。 失ったその瞬間に初めてこの男に恋していたことに気付いたあたしは、 それと同時に新たな持論を確立したのだった。 「……あたしも好きよ、キョン」 要するに、あたしがこの男に抱く感情に足りる表現など存在しない。 それはこの男にとっても同じなのだ。 本日、私涼宮ハルヒは失恋しました。